ぽかぽかした陽気の中、食べ終わったお弁当箱を片して机に伏せる。

おしゃべりする女の子たち。お決まりの雑誌を囲んで中学生のように話す男子。

そんな教室の中で隣の席の少年は静かに読書をしていた。時折聞こえる紙をめくる音が心地良い。タオルを机に敷いて仮眠の体勢に入ると、頭に物がぽんとのっかった。


「ありがとな!」

「あー、うん」


差し出されたノートを受け取ると、前席の彼は背もたれに頬杖をついた。


「いやあー、良かったわ。爆睡だったから貸してもらわねーと読解不可能だった」

「和成ばかー」

「言うほど頭悪くねえよ?」

「うん知ってる」


和成と話しつつ、頭を机に預ける。目の前には真太郎のテーピングされた左手が見えた。


「何、眠いの?」


和成が私の頭を小突く。


「授業中がんばる分、仮眠とるの」

「今俺のこと軽く批判したっしょ」

「んー...ん?」

「何その曖昧は」


上を向いていた右頬を和成が指でつつく。数回ふにふにと押されていると、真太郎が本を置いた。


「お、どしたの真ちゃん」

「お前がうるさくて気が散ったのだよ」

「悪ィ悪ィ」


まったく、と眼鏡のブリッジを上げる真太郎。いい加減ほっぺつまむの止めないか、和成くん。


「瀬戸。お前も邪魔なら邪魔と言ってやるべきだ」

「真ちゃん辛辣っ!」

「そうだねえー」


眠気が襲ってきているため、自分の笑い顔がへにゃりとしたのが分かった。それを見た真太郎は再び小さくため息。

そうだね、と言っておきながら和成に怒らないのは、別に嫌ってわけじゃないからで。

むしろ、ちょっと幸せだったりするんだ。

そんなこと、真太郎にも和成にも、誰にも言わないけれど。


「あ、」


いつの間にか昼休みが終わり、鳴り響くチャイムに私と真太郎は目を合わせた。


「寝れなかった...」

「瀬戸、居眠りはするな。教師の視線が面倒なのだよ」

「......ん」

「ちょっと真ちゃん、その冷たい視線やめて」


予鈴だったから、あと五分だけ、と目を閉じる。和成から返されたノートが手の下から抜けたのが分かった。


「舞羽」


少ししてから私の名を呼んだのは和成で。

顔を上げると、視界一杯にノートが開かれていた。私のなのに、勝手に色々書いて。和成に貸すと何か必ず落書きがある。

見せられたページの端に書かれた文字を追うと、和成がノートの向こうから顔をのぞかせた。


「おっけー?」

「、うん」


満足げに笑って、和成は前を向いた。その後ろ姿をぼーっと見ていると、またふいに振り返って。

人差し指を口元に当て、もう一方の指で小さく真太郎を指す。


真ちゃんには秘密ね。


彼の口がそう動き、私はこくりと頷いた。

ノートに書かれた彼の字を眺めて。私はまた、消さないでおこうと小さく笑った。


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