「青峰くん!こんな所にいた!」


げ。

眉を八の字にしたさつきが、ずんずん俺の傍に来た。


「もう。若松先輩怒ってるよ」

「ほっときゃいいじゃん」

「そういうわけにもいかないの」


腰に手をあて、ベンチに横になったままの俺を見下ろす。練習に行かなくていいと行ったのは、顧問と今吉さんだ。


「行かねえよ」

「......」

「若松サンにも伝えとけよ。俺より上手くなってから言えってな」


そんなこと言える訳ないでしょ、とさつきが言う。沈黙の後、あ、と小さく声を漏らして笑顔を俺に向けてきた。


「ねえ。私が来るまで誰かと一緒にいた?」

「......まあ」

「女の子?」


千里眼か、コイツは。さつきは俺の心を読んだかのように、さっき途中ですれ違ったの。と言った。

返事をせずに、目を閉じる。

......あいつは本当におかしな女だ。


俺は誰かとつるむことをしない。別に、昔からそうだった訳じゃない。帝光にいたときは、しょっちゅうテツや黄瀬たちバスケ部の奴らといた(黄瀬は勝手に絡んできてただけだ)。

一人でいることが多くなったのは、バスケがつまらなくなってからだと思う。私生活まで面白いと感じなくなって。テツなんかは気にしてくれていたみたいだが、それも俺にとっては迷惑だった。

放っておいて欲しかった。

そのうち寄り付く奴が減っていって、高校に入ってもそのスタイルを変えるつもりはなかった。

案の定、クラスの男も女も寄ってくる奴はいなくて。一人が辛いなんて思ったことはない。むしろこの環境は好都合だった。


ヴー、と俺の携帯がうなり声を上げた。

相変わらず困ったような顔をして俺を見るさつきを放って、ポケットから点滅するそれを出す。


【青峰と話してたせいでバイト遅刻した!
やんわり怒られたよさいあくー。じゃあまた明日ね!】


...もうメールしてきやがった。

此処で俺に話しかけてきて、相手にしなくても近寄ってきて、メアドもわざわざ自分の分まで勝手に登録してきて。

周りから一線引いているそれを、あいつは堂々と跨いで来ようとしている。


「なんか、嬉しそうだね」


画面から目を横に移すと、しゃがみこんださつきが俺を見ていた。


「笑ってる」

「笑ってねえだろ」

「ううん。目が笑ってる」


なんだ、それ。

こんなメールを見て笑う?ないわ。


「さっきの子から?もしかして、彼女さん?」

「違ェよ」


もう一度画面に目を戻して、その短い初めてのメールの文を追った。


「変人からだよ」

「へんじん...?」


そう。

今、俺の心に踏み入ろうと奮闘している、変人だ。

そう思いながら香坂陽和乃の名前を見たとき、僅かに口の端が上がったのが自分で分かった気がしたが、分からなかったことにしよう。


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