相変わらずサボリ癖がある青峰は、今日も午後一の授業を抜けているらしい。今ごろ屋上か、この前のベンチで寝てるのかな。
桐皇学園に入学した私は、華の高校生ライフを夢みてあの日教室に足を踏み入れた。新しい制服に身を包み、誰もがキラキラして見えて。
そんなとき、会話の飛び交う中でふと目に留まったんだ。
珍しい青髪の短髪が、誰と会話することもなく、机に伏せていた。
彼から放たれるオーラ、みたいなものが、寄せ付けないような、そんな空気を醸し出していて。でも何故か私は目をそらせなかった。
「、!」
ふっと顔を上げた彼は僅かに目を開けて。目が合ってしまった。
息が止まるかと思った。
その青い瞳に吸い込まれそうな、というより、捕まってしまったような。
何もなかったかのように再び伏せてしまった彼にほっとしつつ、胸が高鳴るのを感じて。
きっと私は、恋したんだ。
「あおみね、」
やっとやっと、話せた。
その名を呟くだけで、なんだかくすぐったい。
「あおみね、」
「あ、あの、」
「っ、ん?」
プリント......と、私に差し出すのは、前の席の桜井くん。とてもとても可愛らしい少年である。
「あ、ごめんね」
「いえ、スイマセン!」
ぺこぺこ星人と呼ぼうか。てか、そんなに私が怖いか桜井くん...!
うわー...課題だ。数学だ。
苦手なクセに、今日の授業はほぼ聞いてなかったからよく分からない。青峰が教室にいないからいけないんだ。だから青峰のことを考えちゃって、何も頭に入らなかったんだ。そうだそうだ。
「良ー。なんか食いモン持ってねえ?」
休み時間に入ってすぐ聞こえた声。青峰の声。
「え、あ、食べちゃったんで何もないですっ。スイマセン!」
「まじかよ。寝過ごして昼飯食いそびれたんだわ」
「スイマセン...!」
理不尽なことに、責められているような桜井くん。たぶん本人にその気はないんだろうけど、ね。
私の脳内で数学を拒絶してまで浸食してきた青峰が、すぐそばにいる。これはチャンス。
「青峰ー」
「、またお前かよ」
相変わらず、名前を呼んでくれない。
こんなことでめげてたまるか!
「今日、パン余っちゃったのあるんだよね。食べる?」
いつもはお弁当を持ってくるけど、今日は偶然購買で。購買デビューでテンションが上がった私は必要以上に買ってしまって。お金ないのに、と後悔してたけど、このときのためだったのかと思うと、過去の自分、グッジョブ。
「くれ」
「んー、」
やけに素直な青峰に渡すと、お礼の一つも無しに食べ始めて。
「なんか、餌付けみたい」
「てめ調子のんなよ」
「またその胃袋を救ってあげるわよ」
「......おー」
なっ!「おー」だって!「おー」だって!
「ごちそーさん」
「え、なに」
「ゴミ返すわ」
「自分で捨てろ馬鹿!」
その大きな背中に叫ぶも、青峰はまた教室から出て行った。またサボる気か奴は。
でも、私は分かってる。
私と青峰の出会いは
「運命なのだよ!」
待ってろ青峰大輝。
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