青峰との日常を取り戻して。相変わらず素直になれないあいつは私を煙たがる。そのくせ本気で追い払わないあたり、やっぱり満更でもないんじゃないか...とか、まあそんなのはどうでもいいんだけど。
最も問題にすべきなのは、迫りくる定期試験である。
「そういうわけで、お願い!青峰くんに勉強を教えてあげてください!」
今日は珍しく自分の席で昼休みを過ごしていた。押したり引いたりの加減が重要なのは把握済みだから、たまには向こうからやってくるのを待とうという寸法。ちなみに青峰の方から近づいてきたことはまだない。
そんな中、ついにやってきたのだ。さつきちゃんに引きずられながら。
「ほら、青峰くんからもお願いして」
「はぁ?なんでこいつに教わんなきゃいけねーんだよ」
「もう!そんなこと言ってる場合じゃないってば!」
さつきちゃんはいきなり現れたかと思ったら必死な顔で私に説明をし始めた。青峰の頭が相当馬鹿であること。定期試験でそこそこの成績をたたき出さなければ大阪へ遠征に行けないこと。その、"そこそこ"にさえもこのままでは届かない程末期な状態であること。
危機感溢れるさつきちゃんに比べ、ネクタイを掴まれたまま突っ立っている青峰は他人事のような表情だ。
「陽和乃ちゃんって、意外に成績が良いって聞いたの。特に英語」
「意外っていうのが引っかかるけど、まあ英語は割と得意かな」
「私と先輩たちで他の教科はカバー出来ると思んだけど、ぜひ英語を教えてあげてほしいんだ。どうかな?」
「今吉先輩とか英語すごいできそうなのに」
「まあ、あの人はオールマイティに頭良いからねー。でも三年生だし、あまり頼りすぎるのも申し訳ないかなって」
「それもそうか」
今吉先輩は学年でもトップレベルらしく、めちゃくちゃ偏差値の高い大学を狙っていると聞いたことがある。他人の成績に興味のない私でさえ知ってるくらいだ。それで強豪バスケ部の主将もやっちゃうなんて、悔しいけどスゴイと思う。
「陽和乃ちゃんも忙しいのは重々承知だから、断ってもらってもいいんだけど...」
青峰を一瞥すると、パッと目が合う。そのまま私は視線をさつきちゃんに移した。
「私で良ければ強力するよ。IH、青峰いないと困るもんね」
「陽和乃ちゃんっ!」
ありがとうーっ、と抱き締められる。胸に押し潰されて苦しくなるのがにくい。
「青峰、覚悟しろ。私は厳しいからね」
「頼んでねーって」
「先生と呼べ」
ざっけんな、と悪態をつく青峰をさつきちゃんが叱る。
「部活って試験期間は停止になるんだっけ」
「そう。一週間前からだから、再来週の月曜日以降はないよ。でも今の時点から対策していかないと...絶対厳しい。赤点必須」
「ヒドイね」
「ヒドイの」
呆れ顔を向けてやる。あと数週間で、せめて赤点回避。できれば平均以上。これはかなり難題だし、責任重大かもしれない。
スケジュール帳を広げて自分の予定を確認するも、バイトバイトバイト。試験前も入れてしまっている辺りが意識の低さを感じさせる。
「青峰の空いてる時間教えて」
さつきちゃんを見ながら言うと、俺に聞けよなんでさつきなんだよ、と青峰がちょっと不機嫌になった。
青峰とのマンツーマン勉強会。あーもう今から楽しみすぎる!
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