見上げると雲一つ無いまっさらな青。

照りつける日差しは春に比べて強くなって。

夏が、近付いている。





「おい」


愛しい低音の声に顔を上げると、日焼けしたにしては焦げすぎた肌黒の彼。


「お前何見てんだよ」


視線は私の手元の物。


「......青峰のえほん?」

「絵本じゃねえよ返せ馬鹿」


伸びてきた手を体ごと避けると、青峰は舌打ちをかました。


「そんなん女が見てどーすんだよ」

「青峰の好みを学ぼうかと」

「お前はマイちゃんと根元から違うんだから意味ねえ」

「失礼だぞ」

「事実だ」


真面目な顔で見下ろしてくる青峰の脇腹に水平チョップをくらわせる。不意をつかれた奴は、うへっ、と小さく悶えた。


「新技。なかなかいいでしょ」


そういって視線を雑誌、もとい堀北マイちゃんの所謂エロ本に戻す。黒ビキニから覗く豊満な胸。さつきちゃんのとどっちが大きいんだろう。やっぱマイちゃんかな。


「エロ本真剣に見る女初めてだわ...」

「それはどうも」


ほめてねーし、と呆れた声を発して青峰は頭を掻いた。

お昼休み真っ只中。青峰がちょっと席を外した隙に、私は奴の席を陣取って。ちょうど机に放置されていたそれは青峰の愛読書だった。堀北マイちゃん、結構普通に可愛いじゃないか。

諦めたように青峰は隣の椅子を引いて座った。沢村くん、可哀想に。


「そうか。青峰はこういう子がタイプなんだね」

「胸がありゃいいんだよ。女は胸が命だ」

「さつきちゃん...」

「あれは別」


いやあんだけあれば十分...というか、いつも思うけど青峰のさつきちゃんに対する特別感が私は非常に、非常に羨ましいわけです。

さつきちゃんは相変わらずテツくんテツくんだけど、何だかんだこの幼なじみズは仲良しだ。知らない人から見れば、カップルに見えなくもない。正直私だって、実はお互い好き合ってるんじゃないの?と今でも思ってしまう。けど、二人が完全否定の態度を取るところをみると、そうじゃないのは本当のようだ。


「つか早く返せ」

「あー!なにすんの!破くよ!」

「破いたら弁償しろや」


油断した隙に没収された。まあいいや。


「安心して。マイちゃんなんか目に入らないくらい、私が青峰の心を掴んでやるから」

「その自信どっからくんだよ」

「自信っていうか、確信?」


変わんねーし、と眉間に皺を寄せる。そういう苛ついた顔も嫌いじゃない。なんて。

まだまだ昼休みの中盤で、教室でも廊下でも賑やかな声が飛び交う。そんな中青峰が此処にいるなんてめちゃくちゃ珍しい。いつもは屋上とか行っちゃうし。なんだ、やっぱりこいつも、満更じゃないんじゃないの?私は最高に今幸せだけど。


「お前さぁ」

「何?彼氏はいないよ?青峰のためにいつでも空けてあるからね」


だから、と言って溜め息。青峰が額を抑える。


「ホントお前って馬鹿だよな」

「照れ隠ししなくてもいいよ」

「はあ?マジついていけねーわ」


強面のくせに、可愛いところもあるんだよね。こいつ。その話をさつきちゃんにしたら、今度小さかった頃の青峰の写真を見せてくれることになった。さつきちゃん万歳。


「あのさぁ、お前友達いねーだろ」


唐突に発せられた言葉に、思わず青峰の顔を凝視した。


「いるよ」

「いーや。それ多分幻想」

「え、青峰は友達じゃないの?」

「ちげーだろ」

「あ、そっか。分かった。友達は、さつきちゃんとかね。青峰は彼氏か」

「もっとないわ」


友達でも彼氏でもなくて、なんなんだろう。え、なに。フィアンセとか。将来まで約束してくれるのか。うわあ、新しい。


「変なこと考えてんだろ」

「至って真面目に」


いつでも準備万端にしておくね、と笑顔で言うと、青峰はまたまた溜め息を吐いた。


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