「だーりィ」
くあっとデカいあくびをして、寝ころんでいるベンチからだらりと腕を垂らす。部活が始まって30分くれぇか。まだそれしか経ってないのかよ。
「あー。帰るか」
俺を探し回るさつきを巻いて巻いて、使われてない焼却炉の裏にあった此処に来たわけだが、まあいつかは見つかるだろうな。
だりィ。どうせ練習出たって相手になんねーし。何より、イヤでも聞こえてくる部活の声がウザい。
「ねぇ、少年は部活行かないの?」
起き上がろうと目を覆っていた腕を退けようとした途端、降ってきた女の声。腕をどかすと、急に光が差し込んで、それをバックに俺の顔を逆さまに見下ろすヤツがいた。
「誰だテメェ」
つーか、全然気づかなかった。テツじゃねんだからよ。
「ヒドいなぁ、青峰くん」
へらりと笑って、そいつはのぞき込んでいたのをやめた。俺が上半身を起こすと、そいつは前に回り込んできて。
「同じクラスなのに」
「知らねーよ」
「私は知ってるよ。青峰大輝くん」
腕を後ろに組んで、笑みを浮かべる。こんなやつ、知らねえ。クラスの人間なんかに
「興味ない?」
「は、」
「どうでもいいんでしょ。クラスの子とか」
エスパーのように俺の心を読んで。黙っていると、してやったり顔でにっと歯を見せた。
「香坂陽和乃」
私の名前ね。
覚えろってか。面倒臭ェ。さっきから適当にあしらってるのに、なかなか去ろうとしない、...あー、香坂?、分かんねぇ。
「君はバスケ部のエースなんでしょ?」
「だったら何だよ」
「練習しなくていいの?」
「する必要もねえんだよ」
「ふっ、すごい自信」
当たりめーだろ。何なんだよ。ずっと笑ってるコイツに腹が立つ。
すると、俺を捉えていた目がすっと細まって。
「別に、君が強いなら文句言わないけどさ。君の所為で桐皇が負けたりしたら、私許さないからね」
「あ?」
ヘラヘラしてた雰囲気が無くなって、真剣にそんなことを言ってくるから、余計に腹が立った。
俺が負ける?
誰に?
凄んで睨みつけると、コイツはがらりと空気を変え、また笑いやがった。
「ま、なんて言うの。いちバスケファンとしての発言ってことで」
俺に背を向け、少し歩いて振り向いた。
「じゃあまたね。青峰くん」
また、もねえよ。二度と会いたくねえ。
何も返さない俺に笑顔を残して、立ち去っていく。
「うっぜ」
さつきに見つかる前に、さっさと帰ろう。放り投げてあった薄っぺらい鞄を手にとって、俺は校門へと向かった。
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