昨日の夜、「明日がんばってね」とメールをしたのに青峰は返してくれなかった。もう一度問い合わせをしてみるけど、やっぱりメールは入ってなかった。

体育館入り口付近で桐皇の制服を着た団体がいたのを横目に、一人中に入る。前の試合がまだ終わっていないらしく、入った瞬間歓声が耳に届いた。


「わ、良い試合してる」


真ん中くらいの空席に座る。やっている試合は接戦で、第4Q残り3分にさしかかっていた。


「っ、いけっ!」


思わず出てしまった声。放たれたスリーは綺麗にゴールに入り、見事逆転した。少ししてから試合終了のブザーが鳴って。


「...やっぱりいいな。バスケ」


喜び合う勝利したチーム。負けたチームは支え合ってベンチに戻っていて。予選はトーナメントだから、彼らのインターハイ挑戦は終わりだ。それでも笑顔で泣く彼らはすごくかっこよかった。

斜め後ろにぞろぞろと桐皇の応援団が入ってきた。離れてるから、そんなに気にならないだろう。そして、


「来ったあー...」


入れ替わりでベンチに入る桐皇バスケ部。監督さん、今吉先輩を先頭に、近くにはさつきちゃん。桜井くんもいる。

青峰は?と探していると、ヤツは遅れて後ろに付いて入ってきて。


「相変わらず俺様だな」


ジャージを脱ぎ、ユニフォームになって。


「青峰、がんばれよ」


コートに並ぶ彼に、小さくエールを送った。




「勝負見えたなあ」

「あの5番すげぇ!」

「桐皇今年強すぎない?」


第2Q残り5分。すでにダブルスコアになる勢いで桐皇が圧勝していた。

連続となるシュートを、今吉先輩が鮮やかに決める。

わあっと盛り上がる観客。桐皇の応援団も大声で騒いでいて。

そんな中、私はただコートを見つめるだけだった。


「なんで...」


私の呟きをかき消すように、ブザーが鳴り響いた。インターバルに入った選手たちが控え室に戻っていく背中を見送る。


「なんかこんなんじゃ、相手がかわいそうだよな」

「もう戦意喪失って感じだよね」


近くの人の声が、なんだか遠くに感じた。

初めは、彼らのプレーにただただ圧倒されていた。ジャンプボールは真っ直ぐ今吉先輩の手に。パスが渡って、桜井くんが3Pを綺麗に決めて。相手に渡ってもすぐに取り返して。

青峰にボールが回ったときは、もう誰もついていけなくて。目で追えないほどの速さでダンクを決めて。

身体が震えるってこういうことなんだ、と実感していた。

でも、しばらくして私は違和感を感じた。スーパープレーが繰り出され続ける中、だんだん心に穴が空いたような感覚に襲われた。

ああ、そうか。

彼が言ったことが、すべてだったんだ。


「僕らのバスケは、香坂さんが好きなバスケとは違うかもしれない」


戻ってきた選手の中の桜井くんは、コートにいたときの緊迫感がなかった。その代わり、いつも以上に不安げな顔つきだった。


「僕は......、」


桜井くん。

今なら、君が言おうとしていたことが分かる気がするよ。


「桐皇のバスケは、私が好きなバスケじゃない...」


そして、第3Q開始のブザーが鳴った。


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