「今度の日曜日、か」


どの部活もインターハイが始まるらしい。帰宅部な故に全然知らなくて、そろそろかなーくらいに考えていた。


「全員紙回ったなー?で、各会場にクラスから5人応援に行ってもらうんだが───...」


配られた日程表には、女子バレー、ラグビー、そして男子バスケの日付やら場所やらが示されていた。つまり、クラスからは計15人が駆り出されることになる。

一年でレギュラーになる人はなかなかいない。そんな中、青峰はもちろんレギュラー。そして、可愛い顔して謙虚な前の席の彼もレギュラー。


「バスケ......場所近いじゃん」


うん、バイトはなしの日だ。良かった。あったとしても休ませてもらうつもりだったけどね。

どんどん決まっていって、担任がバスケの応援希望者を聞いた。





「香坂さん、見に来ない、んですか...?」


ホームルームが終わってざわつく教室。振り返った桜井くんが、小さな声で問いかけてきた。


「ん?あー、さっきの?」

「、はい。香坂さん絶対手挙げると思ったのに...」


言葉の終わりがフェードアウトしていく。

さっきの希望調査で、私は手を挙げなかった。出遅れた、とかじゃなくて、わざと。


「なんでそう思ったの?」

「えっ!?」


あえて逆質問してみる。そんなこと聞かれると思っていなかったんだろう。桜井くんは大きな目をパチパチしてみせた。


「だ、だって、青峰さんと香坂さん仲良いから。きっと応援しに来るんだろうなって......」


なんか勝手にスイマセン!と謝って。


「んーん、もちろん見に行くよ」


へ?という顔をする桜井くん。


「どういう...」

「個人的に行って、応援するの。だって団体で行くと声出したりしなきゃじゃん?」


ちゃんとじっくり彼らを見たい。いい席で、応援したい。だからみんなでワイワイするのは嫌なんだ。

そう言うと、桜井くんは目を丸くさせた。


「なんだよ。結局来んのか、お前」

「、青峰」


ふと見上げると、机の横に青峰が立っていた。席を立ったこいつが私のところに来るなんて珍しい。嵐が来るんじゃないの?


「手ェ挙げなかったから、安心してたのによ」

「何の安心だ」

「うっせーのがいないことへの安心」

「嘘つけ本当は寂しかったくせに」

「誰が」

「素直になれよ」


わざとらしくため息をつく青峰。


「良かったね。しっかりあんたのプレーを見届けてやるから」


もちろん、桜井くんの応援もするからね。と言うと、スイマセンが返ってきた。

とは言っても、私は個人を応援に行く気はなくて。桐皇のバスケを観に行く。それだけだ。


「来ないかと思って心配だったんでしょ?だから私の席に遊びに来たんだもんね」

「お前頭のネジ拾ってこい」

「揃ってるよ。失礼な」

「良に用があったんだよ。お前じゃねーよ」


あっそー。なんだなんだ、つまんないの。

青峰はそのまま桜井くんに部活の伝言を伝えて教室を出て行った。


「楽しみにしてるよ。桐皇の試合」


桜井くんは少し俯いて、歯切れの悪い返事をした。


「、どしたの?」

「......青峰さんは、凄い」

「うん。知ってるよ」

「違う。香坂さんは分かってないんだ...」


顔を上げた彼は、何故か辛そうな顔をしていて。


「僕らのバスケは、香坂さんが好きなバスケとは違うかもしれない」

「、桜井、くん...?」

「僕は......、」


そう言ってから、桜井くんははっとしてスミマセン、と呟いた。

泣きそうな彼は、一体何を思っているのだろう。

何を言いかけたんだろう。

声をかけようとしたのと同時に先生が入ってきて。桜井くんは決まり悪そうに前を向き、私に背中をみせた。


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