「最近楽しそうね」
グラスを洗いながら、カウンターで珈琲を入れる神永さんを振り返った。
「え、そうですか?」
「うん。前よりも生き生きしてる」
「前から全力で生きてます」
そうだね、と笑う。
神永さんは、バイト先のカフェのオーナーさん。それなりにいい年(って言うと怒られるけど)な割には、気さくで素敵な女性だ。
小さなカフェを営んでおり、今も二組の常連さんがいるだけ。のんびりとお洒落なジャズが控えめに流れていた。
「分かります?」
「あら、何かあったの?彼氏できた?」
お茶目な笑顔で聞いてくる神永さん。
「まだです」
シンクに目線を戻すと、後ろから、残念、と言う声が聞こえた。
「でも、気になってる人とよく話すんです」
「どんな人なの?」
「ガングロの青い短髪の、巨人」
青峰を思い浮かべながら言葉を並べると、神永さんはうなり声を上げた。
「イメージが凄いことになってるんだけど」
「そのままでいいですよ」
「陽和乃ちゃんの趣味が分からないわ」
「あと、二の腕が最強」
なあに、それ。と神永さんが笑う。
「今度連れていらっしゃい」
「いやー......此処の雰囲気に似合わなすぎる」
「そう、でしょうね。でも見てみたいわ」
「じゃ、付き合ったら」
楽しみにしてるからね、と言って、神永さんは淹れたての珈琲をお客さんに注ぎ足しに行った。
改めて店内を見回し、青峰が座っているところを思い浮かべる。似合わなすぎてウケた。
「いらっしゃいませ」
神永さんの声にドアの方を向くと、目を引くピンク色。
「さつきちゃん!」
「え?あ、陽和乃ちゃん!?」
ぱあっと笑顔の花が咲いて。手を振り返していると、彼女の横の金髪に目がいった。
「ありゃ。デート?」
なかなか格好いい男の子。制服は桐皇のじゃないけど、背が高くて、金髪。
「違うよー。中学のころの同級生」
カウンターの席にさつきちゃんが座って、彼氏、じゃない彼もその隣に座った。近くで見ると、美顔揃いで怖い。
「黄瀬涼太くんだよ」
「き、せ......黄瀬!?」
「どーもっス」
黄瀬!?黄瀬!?と連呼する私。目の前の二人は笑いながら頷いていた。
「モデルの黄瀬涼太さん!?」
「そーっスよ」
「うっわ、え、ほ、ほんもの」
「そうだよ。きーちゃんは、あの、黄瀬涼太」
きーちゃんて。さつきちゃん、こんなのと友達とかすげえ。
そんなにモデルとか知らないけど、それでも黄瀬涼太は分かる。最近ガンガン売り出してるから。実物凄い。オーラがある。凄い。
「陽和乃ちゃん。オーダー取ってね」
後ろを通った神永さんが、にこやかに肩を叩いた。
「あ、ごめん。えと、何にする?」
「じゃあ、俺カフェラテで」
「私も同じの」
神永さんがやっておくわね、と合図した。ウインクを飛ばすところが、年齢を感じさせない。
「陽和乃ちゃん、バイトしてたんだ」
「そう。さつきちゃん、此処来たこと無いよね?」
「初めてだよ。お洒落だねー」
さつきちゃんと話しつつも、どうしても気になる隣の彼。ちらちら見ていると、目があってしまって。だめだ、ハズい。
「さつきちゃんと黄瀬、さんはどういうご関係で...?」
「さんとか敬語とか、気にしなくていいっスよ。タメでしょ?」
「あ、はい、あ、うん」
笑顔がまぶしい。これがモデルスマイル。
「同じ中学でね、今日はどっちもオフだったからちょっと会おうってことになって」
「、彼氏じゃ」
「違うよ」
「桃っちー、一刀両断はさみしいっス」
相変わらず黒子っちッスか?と黄瀬、くんが聞いて、さつきちゃんは頷いた。
てか、黄瀬涼太ってこんな喋り方なのね。「っち」ってなんだ。黄瀬涼太じゃなかったらただのイタい子だぞ。
「きーちゃん、香坂陽和乃ちゃんだよ。桐皇で、青峰くんと同じクラス。彼女さんなの」
「ええっ、青峰っちの彼女!?」
私が訂正をする前に反応した黄瀬くん。何故かさつきちゃんは、私と青峰をくっつけたがる。是非そのままキューピットになってほしいんだけど。
「あの、付き合ってないから」
「近々付き合うんだもんねー?」
「そうなんスか!?へー」
応援するッスよ!とモデルスマイルが発動されて。事実、青峰が好きな私としては否定をすることもないから、あーうん、とぎこちないスマイルを返した。
「黄瀬くんと青峰も友達なんだ?」
「三人とも同中っスからね。バスケ部だったし」
「えっ。黄瀬くんもバスケなの?」
「そうっスよ。これでもキセキの世代なんで」
聞き慣れない単語に首を傾げると、青峰っちはそこのエースなんスよー、とにやつきながら黄瀬くんが言った。にやつき顔までイケメンである。
「はい、どうぞ」
神永さんがカップを差し出すと、それを一口飲んで二人は美味しいね、と笑顔を浮かべた。
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