動けない。身体が動くことを、振り向くことを、逃げることを拒んでいるようだった。だが、自分の意志と関係なく足が声の方へ向き、あの男と対峙した。


「フッフッフ!久しぶりだなぁ、ナマエ」


ドフラミンゴ。自分とあの人を引き裂いた男。気味の悪い笑い声を上げ、口の端を吊り上げる姿に、言いようもない恐怖心が湧き上がった。


「ほら、こっちへ来い。ん?」


彼がくいっと指を曲げると、勝手にそちらへ歩みを進める足。


(あぁ、そうだ。これがこの男の力)


目の前まで行くと、ナマエよりも随分背の高いドフラミンゴはナマエの腰に長い腕を巻きつけ、軽々と抱き上げた。目と鼻の先にあるドフラミンゴの顔。ナマエは自然にそのピンクの羽を纏う肩に両手を添えていた。


「おいおい...お前、ご主人様の顔を忘れたんじゃあねぇだろうな?猫には首輪をつけておかなけりゃいけなかったか?」


すっとドフラミンゴの指がナマエの首をなぞる。


「......おい、お前、喋れねぇのか?」


震えることのない声帯に触れたドフラミンゴは、肯定も否定も示さずにただ真っ直ぐ自分を見るナマエに再びニヤリと笑った。


「フッフッフ!そりゃあ残念だ!お前の声は好きだったのになあ…!」


(この人だ。ずっと恨み続けた人は)


「......あ?どうした」


(この人だ。私が、会いたかったのは)


「ナマエ......こりゃ何だ」


首にかかっていた指がナマエの頬をなぞる。そこには知らず知らずの内に流れていた、ナマエの涙がついた。




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