ローから感じるのはオトナの余裕、というやつなのだろうか。実際何歳なのかは知らないが、ナマエより年上なのは確かだろう。それとも、航海をする中でどんどん大人びていってしまうものなのか。ナマエからしてみれば年の近い兄のようで。しかし兄妹と言うにはどこか納得したくない思いもあって。
刺青が沢山入った腕。骨張った指は長く綺麗だが、そこにもアルファベットが彫られている。アルコールの所為かぼうっとしながらその指の動きを目で追っていると、いつの間にかそれが目の前まで迫ってきていた。
「、っと。危ねえ。そんなビビらなくてもいいだろう」
気付いて慌てて体を反らせた拍子に、椅子が後ろに傾く。危うく転げ落ちそうになったのを救ったのは、他でもない腰に当て支えたローの腕であった。傾いた椅子を体を起こしながら戻すも、その手はまだナマエの腰に回ったまま。心臓はバクバクと音を立て、顔は火を噴くのではないかと思うほどに熱い。一方のローは少し焦った表情を見せていたかと思えば、ナマエの反応と今の状況を面白がってかにやにやとした顔になっていた。
「驚かせて悪かったな」
悪いと思ってなさそうな声色のローに対し、「大丈夫です」と口を動かす。
「お前がぼーっと俺の手見てたから、近くで見せてやろうかと思ってなァ」
ナマエの目を隠すように再び迫ってくるその手に、今度は少し体を反らせて避けた。また椅子から落ちるぞ、とからかうロー。意地悪。ナマエは口を動かすことなく心の中で思いながら酒を飲んだ。
「あーっ!船長とナマエがイチャイチャしてやがるぅ!おれもまぜてくださいよぉ!」
「だいぶ出来上がってんじゃねえか」
フラフラした足取りで顔を真っ赤にして大声で近付いてきたのはシャチ。ナマエは雰囲気を良い意味で壊してくれた彼に感謝しつつ、ほっとした。
「ナマエはみんなのナマエなんすよー!船長ばっかりはだーめー!俺らに勝ち目なくなっちゃうでしょー!」
後ろからナマエの両肩に手をのせるも、一緒に体重までかけたことで彼女の体は前に倒れる。ナマエが潰れちまうぞーという声が外野から上がる。
もう、というようにシャチの手に自分の手を重ねて彼の顔を見上げようとした、その時だった。
「楽しそうだなァ!俺らも混ぜてくれないか?」
蹴破られた酒場のドアの向こうには、飲みに来たとは思えない武装をした見慣れない男たちが立っていた。
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