飲み始めて暫くするとペンギンも合流し、いつもの面々でテーブルを囲む。そうは言っても、立ち上がって席を移動し近くに来た他のクルーも一緒にわらわらと会話を楽しむのが常だ。今もシャチがターゲットになり酒を飲まされていた。これもいつものことである。
そして相変わらず静かにジョッキを傾けるローと一人分の席を空けて、ナマエは座っていた。間にいたはずのベポは他のテーブルに移動していた。なんとなく気まずい。気まずいというより、どうすればいいか分からない。話す事が出来ないが、視界に映るため気にはなる。じっと見つめてしまっては気味悪がられるかもしれないと思い、ナマエは手元の空になりかけたジョッキと睨めっこしていた。
「何か頼むか」
その声に顔を上げると、こちらを見ていたローと目が合う。空になったのであろうジョッキをふらふらと揺らしている。
いつもはこの辺でジュースに切り替えるのだけれど。
気分をスッキリさせるために、もう少し。そう思ったナマエは、同じの、と口を動かし伝えた。それを見届けたローはウエイターを呼びつけ、二人分の酒を追加注文した。
「無理はするなよ」
運ばれてきたジョッキををローが両方受け取り、テーブルに置く。目の前ではなく少し離れたところに置かれたため引き寄せようとすると、ローがそれを掴んで止めた。びっくりして彼を見ると、口元に笑みが浮かんでいる。
「こっちに座れよ」
空いている隣の席。移動してこい、という意図を含め、あえてナマエの目の前には置かなかったのだとそのとき初めて気付いた。
なんかずるい。
綺麗な顔に見つめられては何も言えない。やや間を置いてから、ナマエはおずおずとローの隣の席へと動いた。
「素直じゃねえか。まあ、お前が逆らってるところ見たことないけどな」
縮んだ距離。お酒の匂いもするが、ふわりと鼻をくすぐるのはローの香り。診察のときによく近付くから、意図せずに覚えてしまった。たったそれだけのことにも敏感に反応してしまうのだが、そんなことを意識しているのはナマエだけで。当の本人は何も気にする様子なく、泡の減ったビールを一口飲んだ。
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