シャチが会計を済ませて店のドアをくぐると、そこにはナマエとベポ、そしてローの姿があった。
「あ、船長着いてたんすね!お待たせしましたー」
「また帽子か」
「いいじゃないすかー。船長だって好きでしょ」
「俺はこれしか持ってねえよ」
「オシャレです、オシャレ」
紙袋を持ち上げて肩をすくめる。店先で溜まる一団に人々が皆視線を向けながら通り過ぎていく。さすがは今世に名を轟かせるルーキーの一人とでも言おうか、毎回ローの集める視線は多い上に、特に女性からの熱い視線は凄まじい。美人がこっち見てるぜ!と嬉しそうにするシャチ。確かにその女性は綺麗で、ナマエでさえも目を奪われる程だった。
「トラファルガーさん、よね?」
近づいて来た彼女から発せられる声は色っぽく、またこの距離で見ると一層華々しい人だった。興奮するシャチに対して、当の本人は面倒だとでも言う表情で肯定の返事をした。
「あなたの船が着いたときからずっと貴方の噂で持ちきりよ。ねえ、少し私と飲まない?時間ならたっぷりあるんでしょう?」
細く長い指がローの腕を撫でるように肩から滑り降りていく。おおお、と感嘆するシャチに、ちょっと、とベポがツッコミを入れた。
あんなに綺麗な人のお誘いだ。断る理由もない。今日の宴にローがいないのは寂しいけれど、そんな日があるのも仕方ないだろう。私が来てからそういうことがなかったのが不思議なくらいかもしれない。
ナマエは一人心の中で思いながら、ローと女性を見る目をそらした。
「時間ならたっぷりある」
「じゃあ、」
「だが、悪いな」
ふわりと香る彼の匂い。
頭に伝わる手の温もりと、回された腕の感覚。
いつの間に下を向いていたナマエは目を見開いた。
「今夜はこいつと予定があるんだ。他を当たってくれ」
いつもより早く心臓が動いていた。ローの言葉に赤面するのが自分でも分かって、余計に恥ずかしい。予定といっても皆で飲むということだし、他意がないのは重々承知しているのだけれど。
「あら...その子はただのクルーなんだと思ってたわ。残念ね」
こいつと、なんて断定されたら恥ずかしいに決まってる。
「寂しくなったらいつでも呼んで、トラファルガーさん」
女性はキスをした紙切れをローに渡して去って行った。それを握り潰しながらナマエを解放したローは、何事もなかったかのように歩き出す。
口実なのは分かってる。分かってるよ。でも、なんだか、ずるい。
ナマエはその背中に追いつこうと足を踏み出した。
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