「おい、聞いたか?この島にあの死の外科医が来てるらしいぞ」
「最近新聞で話題のルーキーの一人だろ?億越えだったか」
「そうそう。潜水艦が海岸に停めてあるのを見たやつがいるんだとよ」
「厄介事を起こさないといいがな」
「おい」
酒屋で噂話をしていたマスターと二人の客がびくりと肩を震わせた。三人の前には、大柄な男何人かが揃って立っている。
「その話、詳しく聞かせろ」
中央の男はそう言って、目をギラつかせながらにやりと笑った。
「あ、ちょっと持ってろ」
シャチは手に取っていた帽子をナマエの頭に被せ、ポケットから呼び出しの鳴る電伝虫を取り出した。
「シャチです」
『俺だ。今誰といる』
「ベポとナマエと一緒です。帽子屋うろついてるところですよ」
「キャプテンも来るの?」
『あァ』
「メインストリート入って少し行ったところなんで、すぐ分かると思いま...って切れたし」
言葉を遮って電伝虫が瞼を閉じた。いつものことだと笑いながらシャチはそれをしまった。
「お前、なかなかそれ似合うんじゃねえの?男物だからデカイけど」
「ナマエは何被っても可愛いよー」
「でもそれは俺が目付けてるやつだからダメな」
帽子を取って再び自分の頭に被せ、鏡を見るシャチ。どうだ?とナマエの方に向き直ると、親指を立てて笑顔を向けた。ナマエの手が帽子のつばに伸び、やや深めに被せるようにぐいと下げる。
「これぐらいの方がいいのか」
鏡の中のシャチと目を合わせながら頷く。んじゃあこれ買いかなー。彼の呟きはナマエに届くことなく、割り込んできたベポによってかき消された。
「俺似合う!?」
「お前はいらねーだろ。クマなんだから」
「クマですいません...」
ナマエはメモを取り出し、『ふわふわな毛並みがすきだからそれで十分』と書いてみせた。被っているとはいえない程度に乗っかっている帽子はナマエの手によって外された。しゃがんでいたベポの頭を数回撫でる。気持ち良さそうな顔をするベポに、ナマエは満足げにした。
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