ゆっくりとした足取りで三人は街の方へと向かった。ローがいない分ナマエはいつもより聞き役に回っていたが、シャチが何倍も話をしてくれたおかげで笑顔は絶えなかった。
いつか、ちゃんと自分の声でみんなと話がしたい。
こういう時間が増える度に、ナマエの心には強い願いが生まれていた。
「何か買いたいものある?」
ベポの問いかけにナマエは首を傾げた。
「アイス!」
「あ、いいねー!シャチ買ってよー」
「お前は自分で買えって!ナマエの分は買ってやらんこともないぜ」
「ずるいよー!俺にも!」
駄々っ子のような白くまに同調するように、ナマエもうんうんと頷いてみせる。
「だから、お前の分は買ってやるってば!」
「ナマエは俺の味方なの!ね!」
「ナマエも調子にのるなっつの!」
むっと膨らませていたナマエの頬をシャチがつまむ。そして長いため息をついてから、待ってろと言って雑踏へと消えていった。残された二人で顔を見合わせ、
「やったね」
ブイサインを向け合う。近くのベンチに腰掛け、人混みを眺めた。体の大きなベポにナマエはすっぽり隠れてしまい、ちょうど良く日陰になっている。ベポの腕に寄り添いながら、いつからこんなに甘えるような人間になったのだろう、とぼんやり考える。他人への信頼なんて、ずっと昔に捨て去ったはずなのに。
遠くから、器用にコーンアイスを三つ持ったシャチが帰ってくる。ベポが手を振る。それに合わせてナマエも手を振れば、少し早歩きになってこちらへやって来た。
「はいよ」
「あ、ナマエだけ二個のってる!」
「我慢しろよ。俺のポケットマネーなんだからな!買ってやっただけ感謝してほしいぜ」
「ありがとう、シャチ」
「おう!」
手渡された青とピンクのアイス。一口食べて、感謝の気持ちを込めてシャチに差し出すと、彼はにっと笑いながらかぶりついた。
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