顔を上げたナマエは、瞬間、ローの鋭い眼光に目を見開いた。
「お前が自分のことを“商品”だと言ったとき。俺はすぐに、あの男のことが頭に浮かんでいた。あんな趣味の悪い商売をする人間は、そうそういないからな」
ローは扉に背を預け、腕を組んだ。
「率直に聞く。お前はドフラミンゴに連れ去られたのか?」
肩をピクリと動かしてから、ゆっくりとナマエは首を縦に振った。
「どれだけの人間に、売買された」
今度は首を横に振る。数え切れない、ということか。それとも、自分が誰の元にいるのかさえ分からないほどだった、ということか。
「ドフラミンゴが言っていた、お前の能力......それは悪魔の実か?」
ナマエは再び、静かに否定を示す。
「違う、のか...。お前の能力ってのは、一体何なんだ」
ぐっと手を握りしめるナマエ。そして、つなぎのポケットからメモ帳とペンを取り出した。書き落としている間に、ローはナマエの近くへと歩み寄る。
“きっとそれを知ったら、あなたも私のことを見る目が変わる”
差し出された紙に書かれた文字。
「言いたくない、ということか」
目が合うと、ナマエは目を伏せて押し黙った。再び二の間に沈黙が流れて。
「......まァ、いい」
「......?」
ナマエが顔を上げると、ローは短く溜め息を吐いた。
「どんな能力だろうと、俺はお前を奴隷として扱おうとは思ってねえ。別に話したくないなら、無理に聞くことでもない」
それに、
「お前は謎が多すぎる。だからこそ、少しずつでいい。声が戻ってからでもいい。お前が俺たちに、心を開ききったとは思えないしな」
ナマエとローが視線を交える。月明かりが、優しく照らしていた。
「とりあえず今日は寝ておけ。心配すんな。お前を船から降ろしたりはしない」
ナマエに背を向けてドアを開けたロー。一瞬振り返りその横顔を見せてから、廊下へと踏み出してドアを閉めた。
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