ローはふと時計に目をやった。船に戻ってから、約二時間が経っていた。


「様子を見に行くか」


まだ少し湿った髪をざっとタオルで拭く。

あの後、なかなか立ち上がれなかったナマエに一言断りを入れ、横抱きにして船につれて帰った。あてがった部屋のベットに下ろし、まだ動揺を隠しきれないナマエを残して、『少し寝ろ』そう一言言ってからローは部屋を出た。

気になっていたのは、ドフラミンゴの言動だけではなかった。ナマエはおそらく、ほぼ確定的に、彼が手をかけている人身売買の被害者である。ならば、ドフラミンゴはナマエにとって憎悪と恐怖の対象。ローの腕の中で震えていたナマエ。しかし、ローはそれだけではない、何か他の感情を彼女の表情から感じていたのだ。


(......謎が多すぎる、)


思考を巡らせながらたどり着いたナマエの部屋。物音もせず、明かりも漏れていないということは、寝ている証拠だろう。ローはそっとドアを開けた。






暗闇の中で目を覚ました。何も物音がしないところ、部屋には自分一人であるのだとナマエは理解した。そういえばローが運んでくれたのだと思い出す。

目をつぶると、浮かぶのは久しぶりに見たあの男の顔。

胸がぎゅっと苦しくなる。ナマエは裸足のままベットから下り、薄暗い部屋に漏れる月明かりへと足を向けた。丸い窓からは果てしない海。窓に触れ、ナマエは二人の人間の名を、音のない声で呟いた。


「何してんだ」


部屋に足を踏み入れたローは、ベットの上ではなく窓際に立っているナマエに声をかけた。とは言っても、その姿を認めてから声をかけるまでには、少し間があった。

それはナマエをぼんやりと照らす月明かりと、その切なげな横顔に、一瞬言葉に詰まったからだった。

振り向いたナマエは、ローを視界にとらえると、そのまま俯いた。


「寝てろと言っただろ。裸足で......風邪引くぞ」


沈黙が流れる。もともとナマエは声が出ないのでローが話さない限り無言が続くのは当然なのだが、それだけが原因ではないだろう。


「ナマエ、俺はお前に、いくつも聞きたいことがある」




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