ヴーン、と鈍い音がしたと思った途端、ナマエはローの腕の中にいた。頭の後ろに片手を当てられ、自分の肩に押し付けるようにしてローはナマエを支えていた。地に着いている足と、解放された首もとが、ドフラミンゴから離れた証拠だった。
「ローじゃねえか。フッフッフ!そうか、お前が飼い主だったとはなァ!フフフ!」
ぐっと肩に押し付ける力が強くなる。ナマエの背中越しに聞こえるドフラミンゴの声。
「ドフラミンゴ...!七武海のお前が何故此処にいる......!」
殺気を纏った声で問い詰めるロー。ドフラミンゴは盛大に笑い、ローを見据えた。
「何故かって?フッフッフ!そりゃあ、大事な商品が行方不明だったんだ。回収に行くのがディーラーの務めだろう!?」
「っ、やはりそうか。まさか本人とはち合わせるとは考えていなかったがな。あんたが絡んでいるだろうとは思っていたさ」
近くで聞こえるローの声と、遠いドフラミンゴの声。ナマエには姿が見えないが、両者の表情は簡単に想像できた。
「なァ、ロー。お前はそいつの能力を知っているのか?」
ビクッと震えるナマエの身体。ローはちらとその脳天を見てから目の前の男に視線を戻す。
「知らねえよ。こいつは患者として拾っただけだ。人身売買なんざ興味ねぇ」
「そうか...知らねえのか。フフフ!楽しみだなァ、ナマエ!ロー、お前は良い落とし物を拾ったぜ?大事に扱うことだな!フッフッフ!」
ドフラミンゴに名前を呼ばれた途端ビクつくナマエ。ローは頭の後ろから背中に手を移し、また少し自身に引き寄せた。
「ロー。お前と此処でやり合う気はねえ」
「!」
「まァいいさ。飽きたらいつでもヒューマンショップに売りつけな。高値がつく」
「......テメェ...!」
ギリッとローが刀を握り直すと、ドフラミンゴは身を翻し、背を向けて歩き出した。
「やらねぇっつったろ?ナマエ、せいぜい楽しむんだな。また会おうぜ!フッフッフ!」
「おい、待て!」
ローがドフラミンゴに声をかけた途端、ナマエの身体が崩れ落ちた。小さく舌打ちをしてからローは浜辺に座り込んだナマエと目線を合わせる。
「大丈夫か!?」
虚ろな瞳に、額にはうっすらと汗が滲んでいた。ナマエを支えながらドフラミンゴが歩いていった方を見ると、そこにはもうピンクの背中はなく、ただ静かな闇と星空、海があるだけだった。
(ほら、またあなたはそうやって)
(どこまでも本性を隠そうとする)
(昔も今も、ずるい人だ)
(ねぇ、ドフィ......)
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