自分でも気付かなかった涙。それは憎悪の涙でも、恐れからの涙でもないことは、どこかで分かって。


「俺のために流す涙か。フッフッフ!面白ェ」


止まらない涙。声が出なくとも、それは嗚咽になっていてもおかしくないほどの勢いだった。ドフラミンゴから目を反らすこともできず、ただ静かにナマエは泣いていた。

ふとサングラスの奥に潜む彼の目が細くなって。その瞬間、ナマエの頭の後ろに手が回り、ピンクの中に顔を沈められた。


「そんなに泣くんじゃねえよ......。お前を手放した俺の覚悟はどうなる。フフフ...!」


いつものドフラミンゴからは想像できないような弱い語気。その口から出たいつもの笑いも、どこか自嘲気味に聞こえた。

ナマエを抱き締めるようなその手は力強く。
しかし、壊れ物を抱えるかのような温かさがあった。


「......来たか」


暫くドフラミンゴに身体を預け、ようやく涙が収まった頃。小さな呟きと共にナマエは彼の手によって身体を離され、再びその顔を向かい合わせた。抱きしめられていた間の彼の表情は一切見えなかった。しかし、今見ているその顔と全く違ったであろうことは分かる。


「ナマエ」


小さくドフラミンゴが呟いた。それだけでまた緩む涙腺。憎むべき相手なのに、あの短い時間の中で、これほどまでに開かれてしまった自分の心に、ナマエは複雑な思いを抱いていた。


「それでも俺は、悪者でいるしかねぇのさ。俺じゃあお前を、幸せにできねぇ...!」

またな、ナマエ。


その声はナマエの傷だらけの心に染み込んでいって。この傷を付けた原因はすべて彼にあるのだけれど。それでも、大切な人だった。


「......っ!」

「フッフッフ!お前はどこまでも、商品としてしか生きられねえ!」


別れの言葉を皮切りに豹変したドフラミンゴは、ナマエの首を片手で掴み、支えていた片腕を下げて宙に浮いた状態にした。ギリギリと痛み、息もろくにできない。ナマエは両手でその手首を掴み、高く笑うドフラミンゴを睨み付けた。


「Room」




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