(......なんで)
あの男には何故か恐怖心を抱かなくて。初めこそ警戒したが、おそらくこの船が今までいたような船と何か違うと感じたから。その船長である彼は、きっと今までの船長たちとは違うのだと、そう感じたからなのだろう。
ナマエは側にあったワンピースを手に取った。本当に、こんなに綺麗な洋服を見たのは久しぶりだ。
(あの日以来、だ)
頭の中でフラッシュバックした映像。だんだん無音声になっていることに、ナマエは恐怖を感じていた。
ふと目を窓に向けると夜の海がずっと続いていて。それに呼ばれたかのように、ナマエは甲板の方へと足を向けた。
「......船長、どうします?こいつら」
ペンギンが白けた顔を向けるその先には、酔って大騒ぎしていびきをかいて眠るクルーたち。
「いつもの事だろ。ほっとけ」
彼らをちらりと見てからグラスを傾け、ローはその酒を飲み干した。今酒場で意識を保っているのはローとペンギンだけ。ザルな2人に対して他のクルーは皆酔いやすいのだ。
「今日はいつも以上に飲んでません?船長、」
「んなことねえだろ」
「ありますよ。あまり行き過ぎないでくださいね」
「俺が酔いつぶれたことがあるか?ペンギン」
「......ないですけど」
くくく、と笑って酒をあおる船長に、ペンギンは些か不安にも似た感情を抱いていた。随分と機嫌のいい彼。おそらくそのコアにいるのはあの少女だ。
考え事をしていたペンギンは、ローの立つ気配にふと顔を上げた。
「どこへ?」
「少し風に当たってくる。そのまま船に戻る。お前も好きにしろ」
「......はい」
店からローが去り、一人意識を保って残ったペンギン。足元で口を開いて眠るシャチのわき腹を足でつつきながら、残っていた酒を飲み干した。
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