コンコン、とノックをすると、中から小さく短い返事があって。ゆっくり開くと机に向かうローの姿があった。
此処に来るのは二回目だ。
やや緊張しつつ顔を覗かせていると、ローがナマエの方に目を向けた。
「...夕食か」
時計を一瞥したローが呟く。ナマエは頷いて返し、なるべく早く、と手元のメモに書いた。
「あァ、分かった」
もう少しかかるだろうと踏んだナマエがドアを閉めようとすると、ローが立ち上がるのが目に入って。先に行くべきか、待っているべきか。悩んだまま立っているナマエの横を、部屋から出てきたローが通った。ぱたりと閉まったドア。歩き出していたローが立ち止まり、振り返った。
「お前も行くんだろう?」
「っ、」
頷きローの傍へ駆け寄ると、ローはそのまま歩き出した。
近すぎず、遠すぎず。
そんな距離を保って、ローの半歩後ろを歩く。
「今日は何を作った」
顔は前を向いたまま、ローが問いかけた。ナマエははっとしてメモに“シチュー”と書き、少し距離を詰めてそれを見せた。
「一人でか?」
シェフと一緒に。
そう書こうとすると、ローがメモの上に手を重ねた。これでは書けない。どうしたのかと顔を上げると、思っていたよりもずっと近くにローの顔があった。
心臓が跳ねて、顔が熱くなった。
「俺と会話をするときは、メモを使うな。リハビリの一環だと思え」
目を丸くするナマエににやりと笑って見せ、
「俺はお前の言葉を聞き漏らさない」
そう言ったローはそのまま離れ、再び前を歩く。背中を追いかけながら、ナマエは自分を落ち着けるのに必死だった。
やっぱり、この気持ちは。
答えは見えている。でも認めたくなくて、ナマエは痛む胸を小さく抑えた。
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