「よかったね!もう少ししたらナマエの声が聞けるんだね!」
楽しみだなあ、と無垢な笑顔を浮かべるベポに微笑み返しながら、ナマエは自分の喉元に手を添えた。
振動がまだ自分では分からないが、ローは僅かに変化があると言っていた。そのときの間近で見た彼の顔と、此処に触れた手。
思い出すだけで少し体が温かくなる。
この感覚に似たものを、知っている。
だからこそ、怖くもあった。
「どうかした?」
視界いっぱいに入ってきたベポ。ナマエは頭によぎった考えを振り払うように、慌てて首を振ってみせた。
次の島までは、まだかかるらしい。当分船での生活が続く訳だが、病人と言えども此処のクルーであることに違いはない。問題は声だけのため、ナマエはローに頼んで仕事をもらっていた。
「女の子の手料理なんて何年ぶりだろう...!」
「お前食ったことねーだろ?」
ナマエはクルーの会話を聞きながらカウンターにシチューを並べていった。それをテーブルに運ぶ彼らはナマエに声をかける。だんだん距離が近くなっているようで、ナマエは嬉しかった。
「悪いな、俺の料理で」
ナマエの後ろからプレートを持って顔をのぞかせたシェフ。振り向くと、お前は気にしなくていいからな、と人の良さそうな笑顔で言われた。
ハートの海賊団はクルーが少ない方だ。しかし全員男であり、料理は全く出来ない者ばかり。そのためシェフが一人でまかなっていたのだが、ナマエはそこそこ料理が出来たのでローが助手として提案したのだった。
「船長は?」
「まだ部屋じゃねえの」
呼びに行くか、と誰かが呟くと、シェフがナマエの肩に手をおいた。
「準備は済んだから、船長を呼んできてくれるか?ナマエ」
最近は誰かに触れられることにも抵抗を感じなくなってきていて。そうだそうだ、とはやし立てるクルーに目をやってから、ナマエは頷いてエプロンを外した。
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