そっとナマエの喉に、大きな手が触れた。
「......少しは回復してるな」
ローは喉から手を離し、カルテに書き入れた。
ナマエの体力はもうほぼ正常に戻り、身体中にあった傷も治ってきていた。残る問題は、声だった。
「本当に僅かだが、振動が伝わるようになってきた」
「わあ!」
隣で付き添っていたベポが声を上げた。
「いや、僅かにだ。まだ兆しが見えたとは言えない」
ナマエのことを自分の事のように喜ぶベポは、落ち込むときもそうで。今も、本人以上に残念がっているのはベポだった。
「とはいえ、また声が出る可能性はあるだろう。発声の感覚が鈍らねえように、意識して出す努力を続けることだ」
こくん、とナマエは頷いた。
「ねえ、キャプテン!」
「なんだ」
「俺、紙使わなくてもナマエの言ってること分かるんだよ!」
ね、とベポが笑顔を向けた。それにナマエも笑顔で返す。
発声の練習をベポに付き合ってもらうことが多く、それが遊びのようになってきていて。最近ではナマエが何を言っているのか当てることが、ベポと彼女の楽しみになっていた。
「キャプテン、見ててね!」
ローは仕方ないというように、カルテを机において2人に目をやった。
「 」
「えっとー...最初は、“え”?」
おしい、とナマエは表情を作った。もう一回、もう一回、とやるうちに、ベポの隣で見ていたローが口を開いた。
「“ベポ大好き”」
「えっ!」
「違うか?」
急に口を開いたローに驚きつつ、ナマエは頷いた。ローは満足げに口の端を上げた。
「なんでそんなにすぐ分かるの!?キャプテンすごい!」
ふっと笑って、ローは立ち上がった。
「俺にも、分かったな」
そう言って、医務室を後にした。
前 次
back