久しぶりとか、そんな言葉をかけて済む程の年月じゃない。

記憶の中のあいつはすごく小さくて。
いつも笑って俺を見ていた。

確かに、あれは子供の恋だった。そんなことわかってる。

でも、今こうやって動き出した時間と鼓動が、あれは本当の恋だったんだと俺に教えるんだ。





容赦無く夏の日差しが照りつける。コンクリートが熱を帯びて、外は地獄の様に暑い。エアコンの温度設定を26度にしてベッドに腰掛けながら、冷凍庫から拝借したアイスの包みを開けた。

中学最後の夏休み。世間では受験生にとっては勝負の夏だと騒がれていて、部活を引退した奴らから急に塾やら何やら行き始める。らしい。らしいというのは、俺が例外だからだ。8月頭の今、帝光中バスケ部は未だ練習を続けている。全中が末頃からあるからだ。当然優勝を取りに行く俺たちに受験は関係ない。今でさえ、何校も声をかけてきている高校があるぐらいだ。

相変わらず練習に参加してないこともあって、毎日が暇。だから今もこうして部屋でダラダラと一日を送っている。


「ねえ!青峰くん!」


デカイ音をたてて扉が開いた。廊下から蒸し暑い空気が入ってくる。それより、なんでこいつを当然のように家にあげるんだ。


「んだよさつき......勝手に入ってくんじゃねぇ」

「聞いた!?凛帆ちゃんのこと!」


俺の言葉に耳も貸さず、ベッドに乗り上げてくる。制服のままのところ、部活終わりだろうか。


「は?」

「は?じゃないよ!覚えてるでしょ、朝風凛帆ちゃん!」

「あー、昔引っ越したコか」

「そんな他人事みたいに!」


で、それがどうしたんだよ。無関心な俺に頬を膨らませたさつきは、立ち上がって前に来ると満面の笑みを浮かべた。


「凛帆ちゃん、帰ってくるんだって!」





楽しみだね、と言い残してさつきは嵐のように去っていった。

朝風凛帆ーーーそいつの存在は、今でも鮮明に思い出せる。俺やさつきの家の近くに住んでいて、三人とも同じ年齢だったことから親同士が仲良くなり、俺らもずっと一緒にいた。いわゆる幼馴染だった。同じ保育園に通い、もちろん小学校も同じになるはずだった。だが、あいつは小学校に上がると同時に親の転勤だかで引っ越した。それ以来、俺たちは会っていない。

寝そべっていたベッドから降り、隅に転がったボールを片手で拾い上げた。

ストバスに向かいながらも考えるのはあいつのことだ。帰ってくる。それはどういう意味なんだろうか。あいつだって今は中三なわけで、この時期に引っ越しなんてありえない。だとするとなぜ?それを俺の足りない脳みそで考えるのはかなり無駄なことだと悟る。弾ませたボールを手の上で回した。

此処にもよく、親付きで遊びに来た。あのころはボールを転がしたり、少し投げたりする程度だったが。

誰もいないコートでドリブルを繰り返す。跳ね返る音が響き渡る。ゴールに向かって走り出し、ステップを適当に踏みながらレイアップを決めた。ボールを拾ってはまた戻り、別のフォームでゴール。部活やってないから身体がなまる、なんてことは一切ない。むしろ、なまってやっと周りと同じレベルになるかならないかだ。これぐらいで丁度いい。

リングをくぐって落ちてきたボールを取ってドリブルをしながら戻る。もう一回。そう思って駆け出したとき、視線の端に人影が映って。シュートしてからバウンドを繰り返すボールを無視して振り返ると、そこには


「......だいちゃん...?」


懐かしい。

懐かしい、あの感覚。

俺たちはあの日から確実に違う道を歩いていて。お互い背格好も声も変わって。

だけど、戻ってきたんだ。

今この時から再び動き出した時間と鼓動が、すべてを物語っている。


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