ぐいぐいと人を押しのけ、ナマエは人混みの中心部を目指して進む。時折耳に入る、悲鳴やざわめき、そして罵声。顔をしかめながらナマエは前に進んでいった。


「早く出せよ、酒。足りねえなあ...!」


ようやく視界が開けたと思うと、目に入ったのは柄の悪そうな男。そして頭を掴まれて持ち上げられている男だった。彼が酒場の店主だろう。そして


「......っ、海賊...っ」


汚い笑みを浮かべる男の奥には、先程の声の主であろう女性と男の子がいた。ナマエは片手で頭を抑えつける。


(なんで......なんで、)


ナマエが辺りを見回すと、野次馬の如く群がる人々。しかし誰1人として、店主を助けようと動く者はいなかった。


(あのときもそう。これじゃ、またあの人達も悲しい思いをする)


ナマエは女性と子供に視線をやった。どうしてもその姿が、自分や姉兄に重なった。剣の柄を、強く握る。もうナマエの心は決まっていた。やることは、ただひとつ。腰に差していた馴染みの短剣を出し、ナマエは地面を蹴った。


「ひぃいっ!」

「あーん?なんだ...?」


飛び出した途端ナマエが投げた短剣は、スタン、と音を立てて海賊と店主の間をすり抜け壁に刺さった。


「その人を離せ」


既に海賊の背後に回っていたナマエは、剣を抜いてそれを男の首もとに当てた。あまりに一瞬の出来事で時が止まっていた周りの者達だったが、ナマエの動きを見て海賊の仲間が身構えた。


「ほう...速いな、お前」


乱暴に店主を離す。むせかえる男に妻と子供が駆け寄った。それと海賊の間に立ち、ナマエは男に向かって剣を構えた。


「早く店の中へ!!」


店主を支えながら入っていったのを気配で確認し、ナマエは構え直した。




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