コンコン、と叩かれた扉を開くと、目の前にいたのはエースだった。ナマエを見るなり、よっ、と笑顔で片手をあげた。
「えっと、どうしました?」
「ビスタから、お前に伝言」
「伝言?」
わざわざ人を介さなくても、電伝虫で十分なのに。そんな考えもエースの頭にはないようで、嬉々とした表情で口を開いた。
「もう少しで島につくんだ!」
なるほど。だから嬉しそうなのか。
「で、上陸したら隊で動くから、身支度しとけよ!だってよ」
「了解です」
ナマエが頭を軽く下げながら言うと、エースは堅ェなあ!とナマエの肩をペシペシ叩いた。困ったように笑うと、それを見たエースが更に笑顔になって。
「じゃあ、俺行くな」
「、はい。ありがとうございました」
勢いよく手を振りながら去っていくエースを見送り、ナマエはドアを閉めた。
「上陸か...」
クローゼットを開けた。ワンピースのような可愛らしい服はもとより、年頃の少女のものとは思えないような服の少なさだった。初めに持ってきたものと、買い足したものだけ。動きやすさを重視したので、どうしてもおしゃれは望めなかった。
何にしよう、と考えて、ふと鏡に目をやった。ナマエは自分の髪に触れた。
「やっぱり目立つな。これ」
別に嫌いなわけではない。しかし銀髪はどうしても目を引いてしまうもので、前回の島でも必要以上の視線を集め、居心地の悪い思いをした。
「これにしよ」
ナマエは髪を纏めてから、決めた一着を取り出した。
「これから上陸する。人はそれなりに多いが、中には他の海賊もいるって話だ。無駄に騒ぎは起こすなよ」
「「「はいっ」」」
共に行動する隊員にビスタが声をかけた。ナマエも一番後ろからその様子を見ていると、隣から腕を肘でつつかれた。
「なに」
「お前さ、何でフード被ってんの」
レオだった。彼も上陸組の1人になっていたのだ。
「だって、目立つもん。髪」
「別に良くねぇ?」
「ヤだ。視線が痛いの」
アンタには到底分かんないわ、と言うと、レオは牙を剥いた。
「てかさー。もうちょっと女らしい格好しろよな。お前、女だろ?」
上から下までナマエを見ながらレオが言った。
「女に見られたくないの。ナメられるでしょ、それだけで」
ナマエはフードを引っ張り、深く被り直した。
悩んだ末に選んだのは、長袖の淡い緑色のパーカー。中には黒のタンクトップを着て、パーカーの袖は肘あたりまで上げていた。下は少し緩めのジーンズで、靴は動きやすいスニーカー。そして腰には剣を差していた。
確かに女らしいとは程遠く、レオと並ぶと少年が2人で話しているようにしか見えなかった。
「そんなもんか?」
「そうなの」
ナマエが面倒臭そうに答えると、レオはでもよ、と呟いた。
「ナマエは強いんだし。女っつっても心配ねーだろ」
一瞬目を見開いたナマエだったが、俯いて口を尖らせた。その様子を不思議そうにレオは見つめていた。
「出発しよう。遅れるなよ」
ビスタの声にはっと顔を上げた2人。少し歩き出していた隊員達の元へと、小走りで向かった。
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