「おー。遅かったな」
エースに続いて甲板に出ると、そこにはビスタとその隊員が何人かいた。
「船の中迷ってたんだ。しょうがねえよなあ。この船でけえからよ」
エースがビスタに向かって言った。
「そりゃそうだな。ナマエ、悪かったな」
「い、いえ」
エースの背後にいたナマエは話しかけられてびくりと肩を揺らし、ビスタと目を合わせた。その場で固まっているとエースが振り向き、ほらほら、と言いながらナマエをビスタの前に押し出した。
「改めて、俺は5番隊隊長のビスタだ。よろしくな」
笑顔を向けてくるビスタに思わず苦笑いするナマエ。よろしくもなにも、本当はまだ戦うなんて考えられないのに。
「まァそんなに固くなるなよ。お前、普通の剣は持ったことあるか?」
ナマエは首を横に振った。それを見たビスタは長めの棒を差し出してきた。
「とりあえずこれで練習だな。お前の持ってる短剣じゃあ威嚇程度にしか使えねえ」
ナマエはおずおずとその棒を手にした。ただの木刀くらいの長さの棒なのだが、ビスタから受け取るとずしりと重さを感じた。
「お前がどの程度動けるか見てみたい。ちょっと打ち合いしてみろ」
ビスタは後ろを向いて1人の少年を呼んだ。ナマエよりは年上だろう。兄のカイルと同じくらいかもしれない。その手にはナマエが持つのと同じ棒があった。
「軽くでいい。こいつには手加減させるから、お前はとにかく受けるだけだ」
打ち合い、と言われても今までこんなことはしたことがないし、ましてつい昨日まで近づきたくもなかった海賊を相手にするなんて。
しかしナマエには拒否権がないらしく、いつの間にかナマエと目の前の少年を囲うようにビスタや隊員が立っていて。少年は片手で棒を振りながら笑顔でこちらを見ていた。
周りにいる海賊たちは好奇の目で2人を見ているし。居心地の悪さは極まりない。
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