「...はぁ...っはぁ......」
店を出てから当てもなくナマエは無心で走っていた。やっと立ち止まって間の前に広がっていたのは、ぼんやりと明るい夜の海だった。ナマエは砂浜に座り込んだ。
「......っ」
姉から聞かされたことは信じがたく、受け入れたくないことだった。
幼い頃は家族5人でいることがただただ大好きで、何も迷いなどなかった。自分の容姿を気にするようになった頃、髪や瞳の色を気にすることがあった。母は姉と同じ栗色の髪。父は黒で、兄は黒みがかった栗色。4人とも似ているのに、何故自分だけ銀色なのか。───
『お父さん、』
『どうした、ナマエ』
『ナマエの髪はなんでみんなと違うの?』
不安げに問う幼い末娘を見て、父は優しく微笑んだ。
『そんなこと気にしなくていいさ。お父さんはナマエの綺麗な髪が大好きだよ』───
ナマエは髪の毛に触れた。走ってボサボサになったそれに手櫛を通すと、さらさらと月明かりを反射しながら指をすり抜けていった。
父に誉められたその日から、容姿を気にしなくなっていた。1人瞳が黒いことも、いつの間にか考えなくなっていた。
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