「ナマエ、」
トントントン......
「ナマエー」
トントントン......
「ナマエ!」
「なに」
「お前機嫌悪すぎだろ」
「うるさい」
お兄ちゃんは黙ってて!と言ってナマエは包丁を動かし始めた。ここはクルアの酒場の厨房。カイルとナマエが今夜の下拵えをしていた。
「それ、切りすぎだから」
「......」
必要以上に切ったニンジンをじっと見つめ、固まるナマエ。かと思ったら、それらを雑に横に寄せてキュウリを手に取り切り始めた。
「......」
厨房に響くテンポ良い包丁の音。
「ナマエ、」
カイルが再び名前を呼ぶとナマエはガチャンと包丁を置き、背中合わせに作業する兄を振り返った。眉間に皺を寄せる少女。機嫌は最悪だ。
「お兄ちゃん。そんなにあたしの名前呼ぶ暇あるなら、手動かして!」
「落ち着けって」
「落ち着いてます!!」
......いや、全然落ち着いてないから。カイルは妹を見てふぅ、と息を吐いた。
前 次
back