どれほどの時間が経っただろうか。
薄っすらと目を開けて差し込んだ光に眩しさを感じたナマエは、ゆっくりと思考を巡らせた。意識が戻るに連れて、痛みが身体を蝕んだ。
マルコが自分たちを助けに来て、あっという間にあの海賊を倒して。最後に駆け寄って来た彼の姿をぼんやりと認識したところで記憶が途切れていた。
「ーーった」
「目ェさめたか」
身を少し動かしたときに擦れた背中に痛みを覚え、苦しげな声を発する。強く閉じた瞼を開くと目の前にはマルコの顔があった。
「無理して動くな。かなり傷を負ってるよい。しかも全身にかけて」
穏やかに、少し悲しそうな顔をしてマルコがそう告げた。
「あの...」
「あの坊主は無傷だった。ちゃんと他のクルーが家まで送り届けたよい」
「そう、ですか...よかった...」
沈黙が流れる。静かに目を閉じたナマエは眉をひそめながら、下唇を強く噛んだ。
「ごめんなさい...」
「ん?」
消え入りそうなほど弱々しい声だった。
「ごめんなさい...あたしが、あたしが馬鹿みたいに突っ込んでいったから...あの子も巻き込まれて、みなさんにも、迷惑を......」
「...迷惑ってなんだ」
マルコの言葉に目を開ければ、少し怒った顔をした彼がいて。押し黙るナマエにため息をひとつ吐いた。
「迷惑とか、そんなんじゃねェ。確かにお前の勝手な行動はこの騒動の原因だ。それはそうだ。だけどな、俺たちが助けに行ったのは、お前が俺たちの家族だからだ。仲間だからだ。そうだろい?」
黙ってマルコの話を聞くナマエとしっかり視線を交じらわせる。
「迷惑なんかじゃないんだよい。家族が、仲間が戦ってて、傷ついたら、助けに行くのが当たり前なんだ。お前だって思ったんじゃねェのか。助けに来てくれって」
まァ、自分じゃなくて、坊主を助けに来て、とか思ってたのかもしれないけどねい。
ナマエの顔を見て、図星だな、と感じた。マルコはふっと口元を緩めた。
「それによ、よく守ったな。あの坊主も、あの家族も」
大きな手が、横たわったナマエの頭にのせられた。優しく温かい手。
「あの子供が無傷だったのは、お前がこんなに自分を犠牲にしてまで庇ったからだ。最後の最後まで。船医も驚いてたよい。...痕が残っちまうかもしれねェって言ってた」
「それは、いいんです...」
「、ナマエ」
「あたしは、あの子をちゃんと守れなかった。弱かった。一緒に捕まって、あんなに怖い思いをさせた...」
じわりとマルコの顔が滲んで見えた。涙があふれていた。
「マルコさん」
「なんだ」
「もっと、もっと、強くなりたいです...」
マルコの手が視界を覆った。真っ暗な中で落ちていく涙は、温かな手のひらを濡らしていく。
「あァ、もちろんだ。強くなろうな」
泣き疲れたナマエがそのまま眠りに落ちるまで、マルコがその場を離れることはなかった。優しい目をした彼の横、ナマエの枕元には、彼女の短剣があった。
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