「まあまあ、かな」


大丈夫、と言いたいところだが、さすがにそこまでの気力が残っていなかった。ナマエの言葉に少年は口を少し歪めた。

ああ、こんなことで弱っているところをみられたら、ビスタ隊長はなんて言うだろう。レオは笑うだろうか。変態コックには、ざまあみろ、と言われるかもしれない。

ぼんやりと考えて、はたと気付く。


迎えに来て、くれるのだろうか。


こんなに勝手な行動をして。制止の声も聞かずに。そして、まんまと相手に捕まって、一般人まで巻き込んで。

こんな状況で、どうしてそんなに都合のいいことを考えたのだろう。

ナマエは自分の浅はかさに乾いた笑みを浮かべた。


(でも、)


こんな自分を、助けに来てくれなくても。


(この子だけは、無事に帰さなくちゃ)


手元に武器はない。片腕も、足も、使い物になるとは思えない。

それでも、せめて。


「必ず、護るから」


小さく嗚咽を漏らす少年の頭に頬を寄せる。

その言葉に嘘偽りはない。ただ、ナマエの気持ちと身体とに大きな差があるのも確かだった。


「見事なもんだ!」


突然聞こえた木の軋む音と、男の声。強張る身体に鞭を打って、ナマエは顔を上げた。

目の前に見える男の方から光が入り込んでいる。どうやら倉庫か何かに閉じ込められていたらしい。靴音を立てながら近付いてくる男から、体を反らして少年を隠すようにした。


不思議と、恐怖は感じなかった。


「そんな状態で、よくもまァ護るだ何だと言える」

「うるさい!」

「お嬢ちゃんのお得意の蹴りも、この足じゃあ無理だよ、なっ!」


声にならない悲鳴。全身を駆け抜ける痛み。

男に踏まれた膝から、骨の軋むような音が聞こえた。




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