「っ!ぐはぁっ!」


怯んでいる隙に間合いを取る。ナマエの腕には浅い切り傷が付いていた。


「てめぇ...!」

「悪いけど、剣術だけが取り柄じゃないんだよね。体術もお墨付きなんで」


そうは言っても、正直先程の蹴りはナマエにも多少のダメージを与えていた。恐らく飛ばされたときの衝撃が原因だ。足に感じた痛みをこらえ、ナマエは剣を構えた。


「お前、」

「っ!」

「いつ俺が、剣だけだと言った?」


突如コートの下から出てきたのは拳銃。銃口が真っ直ぐにナマエの方を向き、まずいと思ったときには遅かった。

鋭い銃声。

手から滑り落ちる剣。

ナマエの右腕には、パーカーの下からそれを染めながら流れ出る鮮血。


「くっ...」


悲痛に顔をゆがめ、ナマエは二の腕を押さえながらひざを突いた。抑えた所のパーカーがみるみるうちに赤くなっていく。

俯いていたナマエの視界に影が差して。顔を上げればすぐそこに、拳銃を片手に持った男が立っていた。


「だから言ったんだよ。たった一発でこのザマか。情けないなァ」


頭に銃口を突きつけられ、鼻先には剣。腕の痛みに耐えながらも、ナマエは動くことができなかった。

剣先が顔の横をすり抜ける。


やられる。


そう思って強く目を閉じると、光が差した。


「あァ...?」


フードがぱさりと落ちる。瞬間、男はそれを剣で払ったのだと理解した。


「おい、女じゃねえか」


刃がナマエの顎をすくう。顔を上げさせられると、男はまた汚い笑みを浮かべた。


「てっきり坊ちゃんだと思ってたが......こんな嬢ちゃんだったとはな」


銃が強く押し付けられる。だから嫌だったんだ。女だと見られることが。

ナマエは男を睨みながら、奥歯を噛み締めた。


「女がそんな威嚇すんなよ。なかなかイイ顔してんじゃねーの」

「黙れ...!」

「ほう?」


ナマエの首筋に刃が突きつけられる。


「白ひげはこの島にいるんだな?」

「......」

「そうか。お前は白ひげの娘なんだろ?もし娘がいなくなったら、ヤツは総力を挙げて探すんだろうな」


息を吸う度に刃先が皮膚を傷付ける。それを見て男は、喋れねえか、と笑った。


「チャンスだな」

「......?」

「お前を餌にして不死鳥や火拳を引っ張り出す。最後は白ひげもだ。出だし出来ねえあの男共に勝機はねぇ!そうすりゃ俺らの名は上がる...!」

「ばか、かよ」

「あ?」


食い込む刃。ナマエはうっすら笑いながら、男を見上げた。


「こんな、下っ端、の、ために、あの人たちが、出てく、るわけ、ないだろうが」


情けない。

結局誰を守ることも、自分を守ることも出来ない。

弱い。

男の口角が上がるのを見ながら、ナマエはただ考えていた。


彼らを巻き込みたくない。


「安心しろ。白ひげは家族を大切にするヤツだ。お前のことを必ず助けにくるだろうよ!」


髪をわし掴まれる。首筋に入った傷に悲鳴を上げると、男はさも嬉しそうに笑い声を上げた。


男が真っ直ぐその拳をナマエの腹部に打ち込む。

薄れる意識の中で、どこからかビスタたちの呼ぶ声が聞こえた気がした。




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