「んあ?なんだ?」


前方を歩いていたレオの声に、ナマエ達はふと前を見た。立ち止まるレオの先には、人集りが出来ていた。


「ビスタ隊長。通れないッスよ」

「見せ物か?」


ビスタがレオの横に立った途端、聞こえた女性の悲鳴。そして、ガラスが派手に割れる音。一瞬にしてナマエ達は険しい表情になった。


「おいおい......なんだよ。俺に楯突こうってのか?」


群衆の中から男の低い声がした。どうやら騒ぎの元凶となっている者の物のようだ。


「面倒なことになったな」


ビスタが呟く。


「海賊だ」


ゴクリとナマエは喉を鳴らした。人で中は見えないが、男の声ははっきりと届いていた。


「お前、たかが酒屋の分際で喧嘩売るってのか?なんならこのまま、息の根止めてやってもいいんだぜ...!」


言葉の直後、人々がざわめく。なにか行動を起こしたのだろう。ふとビスタが横に目をやると、


(まずいな)


真っ直ぐに人集りを見つめ、奥歯をかみしめるナマエの姿があった。ナマエの家の事情を知っていただけに、彼女の脳裏に写る惨劇とよく似た今の状況は堪えるだろうと思った。


「あなたぁ...!」

「パパッ!」


女と子供の声が聞こえた瞬間。


「───っ!ナマエ!!」


ビスタが名前を叫んだ頃には、もうナマエは群衆へと駆け出していた。小さな体で人の間をすり抜けていく。あっと言う間に見えなくなった背中に、ビスタは焦燥に駆られた。


「ナマエ...!?隊長、マズくないッスか!?」

「あァ!お前ら、助けに行くぞ!!」




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