カチャ、と音がしてマルコがそちらに目を向けると、ナマエの横に立て掛けてあった剣が目に入った。
「なかなか良い腕だってよ」
「え?」
「ビスタが自慢してたよい」
それ、と剣を指さすと、ナマエは手にとって目を落とした。
「......本当ですか?」
ナマエが静かに尋ねた。マルコがあァ、と答えると、少女はふわりと微笑んだ。それがいつか見た、彼女の姉に似ているように感じた。
「良かった」
すっとその柄を撫でる。マルコはナマエの指先に自然に目がいっていた。
「お前、クルア達とはちゃんと話せたのか?」
ずっと気になっていたことだった。聞くことに迷いがなかったとは言わないが、とりあえずナマエの生活が落ち着いてからと決めていたのだ。ナマエは手を止め、顔を上げた。
「はい。話し合いました。その...白ひげさんと、あたしが話した後に」
ゆっくり言葉を探しながら話すナマエ。マルコは黙ってそれを聞いていた。
「帰ったら、お姉ちゃんもお兄ちゃんも、飛び出したあたしを待っていてくれていました。それで、自分で言ったんです。海賊船に乗りたいって」
「何て言ってた」
「笑って、頷いてくれました。お姉ちゃんはちょっと泣いてたけど。それから一緒に荷造りをして、いっぱい話しました」
遠い目をするナマエは、きっとその時のことを思い出しているのだろう。
「寂しいか...?」
マルコが言うと、ナマエは肩をすくめてから首を振った。
「寂しくはありません。今の生活は、まぁ...楽しい、し。それに、また会えるって信じてますから。今度会うときには、もっと強くなっていなきゃだから」
「......そうか」
静かな口調とは裏腹に強い意志の宿った瞳。マルコは優しく笑った。
水をぐっと飲み干し、ナマエは剣を手にして立ち上がった。
「じゃあ、そろそろ隊長に呼ばれていますので」
「あァ。頑張れよい」
ナマエはぺこりとお辞儀をして、食堂を後にした。その背中は初めの頃より、しゃんとしているようだった。
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