「そうだな......これか?」
いや、重すぎるな、と呟くビスタ。持たされて10本目になる剣は、ちょうど良い長さだったがナマエには少し重めだった。
「......あ、」
ナマエの声にふとビスタが振り向く。少女は柄を見て、それを指でなぞっていた。
「あァ、それは親父のマークだ」
「海賊旗の、」
「そうだ」
柄に描かれたそれは、白ひげ海賊団のマークだった。
「それは俺たちが命を懸けて守るもんだ」
「命を、懸けて......」
「マルコやエースみたいに刺青にしている奴もいれば、これみたいに自分の武器に描いている奴もいる。俺たちは常に、親父と共に戦う。そういう意志表明みたいなもんだな」
そう言ってビスタは再び剣を探し始めた。ナマエはじっとそのマークを見ていた。
(海賊が背負うもの。命に代えても、守り抜くもの...)
今まで否定的な目でしか海賊を見てこなかったナマエにとって、ビスタの言葉は不思議な響きを持っていた。目の前にある沢山の剣には、よく見るとどれも同じマークがあって。ナマエは手元のそれをもう一度、指先で撫でた。
「これなんかどうだ?」
ビスタが差し出したそれを受け取る。
「きたか」
にやっと笑うビスタ。ナマエは疑問符を頭の上に浮かべる。
「今、それを持ったとき。何か感じなかったか?」
剣を持つ自分の手を見つめてから、ナマエはビスタを見た。
「感じた......。そう、ですね。なんか、手にすっと吸い付くような」
「そう、それだ」
確かに感じた、今までにはない感覚。手にした瞬間それはナマエの手のひらに馴染んだ。そのときのはっとした表情を、ビスタは見逃さなかったのだ。
「その人に合う剣ってのは、持ってみないと分からないんだ。ちょうどナマエが感じたような、手に吸い付く感覚が大事でな。それがないと、どんなに高値のものだって使いこなせねぇ」
ちょっと振ってみろ。そう言われ、ナマエは両手で上下に剣を振る。
「重いか?」
「少し、」
身体が揺さぶられる程ではないが、軽くはない。
「仕方ないな。お前は筋力もまだないし、細身だからな。でも良い機会だと思って鍛えろ」
「はいっ」
「ナマエ、今日からそいつが、お前の相棒だ」
「......はいっ!」
手にした剣を握りしめ、ナマエは勢い良く返事をした。
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