「そこまでだ、ナマエ。サッチ」
「っ!ビスタ隊長......!」
そろそろ止めようかとマルコがスプーンを置いたとき、ちょうどビスタがナマエの後ろにやってきた。カウンター越しにサッチと顔を付き合わせていたナマエの両肩を掴み、引き剥がす。
「俺んところの逸材を虐めてくれるなよ?サッチ」
にやりと笑ったビスタ。ナマエは肩を掴まれたまま、水を打たれたかのように静かにしている。が、目は前の男を睨んだままだ。
「悪ィ悪ィ。ついな、からかいたくなるんだよ」
「......子供扱いしやがって」
ぼそりと呟くナマエ。マルコはそれに、思わず笑ってしまった。
「まぁ見とけや。絶対にいい剣士に育てるさ。ナマエ、俺が鍛えるんだ、こいつよりも数倍強くしてやる」
「はいっ!ビスタ隊長!」
よしよし、とナマエの背中を叩き、ビスタはそのままナマエをテーブルへと促した。残されたマルコとサッチは、その後ろ姿を見送る。すると突然サッチが深い溜め息をついた。
「なーんなんだ?あの態度の差は」
腕組みをするサッチ。
「あいつ、ビスタにだけは従順だよな。“隊長”付けだし?敬語だし?俺なんか変態呼ばわりだぜ?」
俺も隊長だっつの!
マルコは苦笑いにも似た顔でカレーを口に運ぶ。
「仕方ねぇだろい。ビスタはナマエの直属の隊長だ」
マルコはナマエの方を見る。ビスタやレオと同じテーブルで食事を取る少女はほとんど無口だが、時折話しかけられると笑顔を見せることもあった。
「それに、あいつがああやって笑えるのも、ビスタ達のおかげだろう。この船であんなに表情見せるのも、最近になってからだしねい」
それに、とマルコはサッチを見た。
「お前も大人げなさすぎだよい」
「るせー」
分かっているのだ。なんだかんだ、サッチはナマエを気にかけているのだと。
(でっかい子供が、此処にもいるねい......)
ごちそうさま、と言って、マルコは空の皿を男に差し出した。
前 次
back