こうなったらとりあえずやるしかない。ナマエは両手で持った棒をブンブン振ってみた。やはり慣れない感覚なので扱いが難しい。


「始めろ」


ビスタの声がかかった。少年はすっと構えの姿勢をとる。見よう見まねでナマエも同じ様にし、相手の目を捉えた。少しの静寂の後、タッと少年がナマエの方へ駆け出し、棒を振り下ろした。


──────────


「なかなかやるなあ」


2階のデッキからナマエの打ち合いを見ていたエースが楽しそうに言った。


「あいつ、最近入ってきた奴だろ?」


エースはナマエを相手にしている少年を指差した。隣で同じく見ていたマルコは肯定を示した。

ビスタの号令で始まった打ち合いはもう5分になる。カン、カン、と木と木のぶつかる音がほとんど絶えず甲板に響いていた。


「さすがに動きが鈍くなってきたねい」


マルコの視線の先には息を荒くしながら必死に攻撃を防ぐナマエ。一打目こそ防ぎきれずによろけていたが、その後は受け止めつつ俊敏な動きで対応していた。打ち込むことは出来ないが、そのフットワークと順応性はなかなかのものだった。


「──っ!!」

「そこまで!」


足がもつれて尻餅をついたナマエの首に少年がトンと軽く棒を当てた。ビスタが終了の一声をかけた。

ぜいぜいと息をするナマエ。額には汗が滲んでいた。


「やるじゃねーか。ほらよ」


打ち合いをしていた少年が手をさしのべた。立たせてくれようとしているのだが、どうも体がその手に触れることを拒んでいて。ナマエがどうしようかとその手を見ていると、横から伸びてきた手がそれを叩いた。


「何得意気な顔してんだ。手加減しろとは言ったがお前は動きが遅すぎる」

「...すいません」


ビスタは少年に喝を入れると、まだ座ったままのナマエに視線をやった。


「よくついてったな。やっぱりお前は素質がある。これから厳しくしてくからな」


笑みを浮かべたビスタはそのまま解散を告げた。わらわらとギャラリーが動き出すと、再びビスタがこちらを向いた。


「立てるか?」


動悸が収まってきたナマエが立つと、ビスタはその手にあった棒を回収して船内に向かって歩き始めた。

おそらく彼は、ナマエが海賊嫌いなのを考慮して先程の行動をしたのだろう。

打ち合いをしてから、動悸とはまた違う興奮を感じていたナマエは、その男の背中を追いかけて走り出した。




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