「...触るなっ!!」
「──ッ!?」
サッチの首もとには短剣の刃。クルアに回そうとしていた手は、体の横にだらんと垂れ下がっていた。サッチはさっきまでの酔いはどこへいったのか、青ざめた顔で短剣の切っ先を見ている。賑やかだったクルー達も皆静まり返った。ただ1人白ひげだけが酒を飲み続けていた。
サッチの前には1人の少女がいた。長い銀色の髪を横でお団子にしている。彼女の瞳は真っ直ぐにサッチを捉えており、鋭い殺気を放っていた。
「お、おい、」
とりあえずこの状況をなんとかしなければ、と思ったマルコが声を発する。その瞬間
「───ッ!!!!」
「ナマエ!!何してんの!!」
少女の脳天に強烈な拳骨が落とされた。それをしたのは紛れもなく、少女の後ろに守るようにされていたクルアで。店内に響いたクルアの怒鳴り声に、白ひげ海賊団一同は目を点にした。
「ってぇ!!なにすんだよっ!!」
涙目でクルアを振り返る少女。
「『なにすんだよ』じゃない!!お客さんに剣を向けるなって何度言ったら分かるの!!」
クルアは少女から短剣を取り上げ、サッチに声をかけた。その顔はいつものクルアに戻っていた。戸惑いつつも、サッチは大丈夫だと返した。サッチの首もとから短剣が下ろされ、ようやく時が動き出すクルー達。
「すみません、皆さん」
クルアが申し訳なさそうに頭を下げた。
「グラララ!気にすることはねぇ。こいつらが油断し過ぎてたんだ」
白ひげはそう答えてまた酒を飲んだ。
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