ハイテンションの嶺二さんに連れられて、一十木さんたちは男子寮へ向かっていった。残されたのは私と、春歌ちゃん。嶺二さんが振り返って手を振ってくるので、小さく手を振り返した。
......。んー。
やっぱり苦手だなあ、初対面って。嶺二さんたちがいたときは騒がしさに任せてなんとかなってたけど、こうなるとどうしようもない。とりあえず部屋に戻って荷物を整理しないと...。
「あっ、あのっ」
歩き出してすぐ、後ろから声をかけられて。振り返れば、春歌ちゃんが緊張した面持ちで私を見ていた。
「な、七海春歌です!これからよろしくお願いしますっ!」
勢い良く頭を下げる春歌ちゃん。
「徳永雪蛍です。よろしく」
これが今の私の限界。それでも春歌ちゃんは大きな目を見開いて私を見つめた。
「っ、はいっ!」
また歩き出すと今度は春歌ちゃんの足音がついて来る。
「あのさ、」
「はい!」
「あー...えっと。敬語とか、いいから」
え......と小さく声を漏らした彼女。ああ、言い方が悪かった、かな。どうしても愛想良く出来ないのが私の悪い癖。立ち止まって春歌ちゃんを見れば、困惑したような顔をしていた。
「だから...うん。私と春歌ちゃん、一個しか違わないでしょ。だから、普通に...私のことも名前で呼んでくれて構わないから」
「、は、あ、えっと、うん......!」
可愛い、と素直に思う。嬉しそうに、雪蛍ちゃんでいい、かな?と言う春歌ちゃんに小さく頷くと、また笑顔を咲かせた。
「春歌ちゃんが作った曲、聞いたよ。マジLOVE1000%」
部屋に向かって並んで歩きながら言うと、春歌ちゃんはまた少し緊張気味になって。きっと先輩組が今のシーンを見たら驚くと思う。だって、初対面の人に私から話を振るなんて有り得ないから。
「すごく......何か、パワーを感じる曲だった」
でも、音楽は別。素敵なものは素敵だと心から思う。それを伝えないのは失礼なことだというのが私の信条だ。
「ほんとですか...!?」
「あれ作ったの、春歌ちゃんなんでしょ?」
はい、と返事をする彼女。アレンジも自分で?と聞けば頷く。あれだけの曲を、彼女が一人で作ったんだ...。
「いい曲だったよ。社長も分からない人だよね。わざわざ私に編曲頼まなくたっていいのに」
「そんなことないですっ!」
ぼそりと呟く私を遮るように、春歌ちゃんが大声を出した。
「私なんかより、雪蛍ちゃんにアレンジしてもらった方が絶対、素敵になります!」
だから、ST☆RISHのために力を貸してください!
春歌ちゃんは真っ直ぐ私を見つめていて。
「、それが私の仕事だから...。やるとなったら、手は抜かない。それが作曲家さんへの敬意だと思ってる」
春歌ちゃんがほんのりと頬を赤く染めて。その大きな瞳に映る私は、僅かに笑みを浮かべていた。
「私、頑張ります!」
「うん。それから、敬語」
「あっ。ごめんなさ...、ごめんね。なんか癖で...」
困ったように笑う彼女に部屋へ行くよう促せば、私の歩調に合わせて嬉しそうに歩いていた。
「あの、今度雪蛍ちゃんのお部屋にお邪魔してもいいかな?」
「いつでもどうぞ」
「ありがとう!」
ふわりとした空気を纏う彼女と、クールすぎる自分。無愛想だと言われる私の心に自然に馴染んでくる春歌ちゃんに心地よさを感じた。
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