一人廊下に残されて、中から聞こえてくる音楽に耳を傾ける。初めてQUARTET NIGHTの楽曲を担当した、記憶に新しい大切な一曲。様々な思い出が蘇る。

やっぱり、この四人の歌は格好いい。

自分のアレンジに自惚れてるのではない。純粋に、いつも彼らの歌声やハーモニーに聞き惚れるのだ。


「みんなーっ!おまたせぇーっ!」


林檎さんだ。彼(、彼女?)の声は人一倍通るため、こんな立派なドア越しにも聞こえてきた。ハイテンションな林檎さんと、クールな日向さんが目に浮かぶ。


「Ms.徳永」

「ひっ!、しゃちょう...」


ぼうっと合図を待っていると、背後、しかもすぐ傍で声がして。思わず肩を強ばらせ、おまけに上擦った声を上げてしまった。


「どこから...」

「そんなことはーっ、ノープロブレーム!」


高速で回転する社長を前に、頬をひきつらせることしか出来ない。この神出鬼没さは心臓に悪いと、いつも思うのだけれど。


「此処での生活は快適極楽サイコーウなのよー。仕事もはかどること間違いナシ!」


そうでしょうそうでしょう。見るからにって感じだもの。シャイニング事務所期待の新人を住まわせる、マスターコース専用寮。いい設備に決まってる。そこらの施設とは比べものにならない程に。


「緊張していマースか?」

「え?」


静かに私を見つめる。


「新たな一歩を踏み出すことが。新たな出会いをすることが」


自然に視線が落ちた。いえ、と小さく返すも、なんの説得力もない否定だった。

怖いとか、嫌だとか。そういう感情ではない。ただ単に、苦手なのだ。新しい出会いも、人との交流も。


「これはYOUにとっても大きなきっかけになる。がんばってくだサーイ」


はい、と返すその前に、社長は窓から飛び出して......飛び降りていった。普段ふざけているのに、私の心を見透かすようなことをさらりと言い残して。再び静かになった廊下に小さなため息が響いた。


「それから、春ちゃんには心強い味方が来てるのよ。雪蛍ちゃん、入ってー!」


すぐに聞こえてきた林檎さんの声。目を閉じて、深呼吸をひとつ。ゆっくり、前のドアを押し開けた。


林檎さんがこちらに手を伸ばしていて、入った瞬間視線が集まる。


「早く来い」


思わず固まっていると、日向さんに急かされた。慌てて入ると、林檎さんと日向さん、そしてその隣に


「なっ、」

「雪蛍ちゃん!?」

「......っ、なんでキミがいるの」


一斉に驚きの声を発する蘭丸さん、嶺二さん、藍さん。そして、ST☆RISHの六人と七海春歌ちゃんがいた。


「紹介するわね」


傍まで行くと、林檎さんが後ろから両肩に手を置いた。


「徳永雪蛍だ。シャイニング事務所に編曲家として所属している」

「編曲家?」


日向さんが言葉を繋ぐ。ST☆RISHで一番小柄な男の子が、小首を傾げて私に目を向けた。


「春ちゃんは、困ったことがあったら雪蛍ちゃんに何でも聞いてね。彼女、作曲の基礎もバッチリだから」

「あ、はいっ」


買い被りすぎですよ。そんなことないわよっ。林檎さんと言葉を交わしていると、目の前に人の影。見上げれば、スタイルの良いオレンジが鮮やかな髪の毛をした男性が立っていて。ふわりと微笑んだかと思うと、なれた手つきで私の手を取り、その甲にキスを落とした。


「よろしくね、レディ」


くすりと笑った彼はとても色気があって、一体何歳なんだろう、と回らない頭で考えた。


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