歌詞を受け取ってから一週間。時々日向さんや林檎さんにも相談しながらこれまでに手掛けたことのない雰囲気に悩みつつも、ようやく大方が出来上がった。一度聖川さんに聴いてもらうためデータをUSBに移して彼の部屋へ向かう。

正直言って聖川さんの部屋に顔を出すのは少しためらわれる。言わずもがな理由は同室の神宮寺さんにある。悪い人でないのは分かるけれど、絡まれると抜け出すのが大変なのだ。特に今日みたいに作業が詰まっていて既に寝不足な日は、体力を無駄に消費することは避けたい。現に今も歩きながら、頭の中は抱えている三件の仕事のことでぐるぐるしている。

辿り着いた聖川さんたちの部屋。ドアをノックし、暫くして顔を覗かせたのは


「どうした」

「あ、お久しぶりです」


ここのところ顔を合わせていなかった蘭丸さんだった。見慣れた顔にほっとする。


「聖川さんいらっしゃいますか?仕事のことでお話しがあるんですけど」

「いねぇ。出掛けてから戻って来てないな」

「そうですか...。蘭丸さんにこれ預けて行ってもいいですか」


持っていたUSBを差し出すと、蘭丸さんは一瞬険しい顔をした。聖川さんのソロ曲のデータです、と一言添える。


「机に置いておいてもらって大丈夫ですので。私からも連絡入れておきますから」


蘭丸さんの手に渡ったUSBはそのままズボンのポケットへと仕舞われた。そのままドアを閉じてさようならかと思ったのだが、蘭丸さんはこちらをじっと見たまま動かない。なんだろう。


「どうかしましたか」

「いや...大したことじゃない」

「...その間が気になります」

「......いや、久々にお前の姿を見た、と、思って。そんだけだ」

元気そうだな。


ぶっきらぼうだけれど、私の頭の上にのった大きな手は温かい。

思わずくすりと笑いが出る。


「蘭丸さんもお元気そうですね」


私が笑ったのが気に障ったのか、一瞬穏やかだった顔がややむっとしたものに変わる。私の頭上にある手を髪をかき混ぜるように動かされ、見事にぐしゃぐしゃになった。最後に一回ぽんと叩いて手を引っ込めた蘭丸さんの口はへの字だ。


「あいつらに何かされたらすぐ言えよ」

「前も同じこと言われた気がします」

「いいから」

「、わかりました」


みなさん良い人だから、きっと大丈夫ですよ。その言葉は大人しく呑み込んでおく。蘭丸さんは私に対してすごく過保護だ。最近分かってきた。ありがたいけれど、それってきっと蘭丸さん自身が未だにST☆RISHのメンバーに距離を取っているからなんだろうな。

まあ、私もまだ嶺二さんほど馴染めているかと聞かれれば全然及ばない。...いや、あの人と比べちゃだめか。

蘭丸さんにお礼を言って部屋へと戻る。聖川さんがあれを聴いてから、その反応を見つつ最終の仕上げといこう。


「他の二件いつ締め切りだったっけ...」


スケジュールアプリを開いて確認しながら歩いていると、新着メッセージの受信を知らせる音が鳴った。聖川さんだ。どうやら入れ替わりで帰ってきていたらしい。早速聴いてくれたようだが


「そんなに急ぎなんだ...まあそうだよね、オーディションで歌うって言ってたし」


なるべく早く仕上げてしまいたいとそこには書いてあって。他の締め切りも割と差し迫っていて頭が痛いが、オーディションまでに練習もしたいだろうし、間に合わなければ意味がない。ここは私も踏ん張りどころだ。

今からでも作業できますよ、と返信して、心の中で気合を入れた。


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