「お邪魔します」

「好きなところに座ってね」


飲み物何がいいかな、と冷蔵庫を開ける春歌ちゃん。彼女の部屋に入るのは数回目だけれど、私とは正反対にオシャレな雑貨が綺麗に並べられている女の子らしい部屋だ。テーブルの上に飾られている色とりどりの花は神宮寺さんからの貰い物だと言う。ピアノの譜面台には書きかけの楽譜。学園卒業後プロの作曲家として活動し始めてまだ少ししか経っていないけれど、彼女なりに一生懸命努力している様子がうかがえる。


「この前アドバイスしてもらってから、最近新曲作りが上手く進んでて」


冷たいお茶を出してくれた彼女に軽くお礼を言う。可愛い布のコースターを敷いてくれるあたりがやはり私とは違う。これが女子力ってやつなのだろうか。自分の分のグラスをテーブルに置いてから春歌ちゃんはピアノに向かい、譜面を持って戻ってきた。


「今三曲作り終わって...あと一曲作ったら社長のところに持って行ってみようと思ってるんだ」


正面に座って微笑む彼女から、差し出されたそれを受け取る。さっと目を通しただけでも、前回相談に乗ってほしいと頼まれたときに比べすべての曲のクオリティが上がっているのはすぐに感じた。それに何より、


「大丈夫だよ」

「え?」


細かくチェックすることなく楽譜を返すと、春歌ちゃんは拍子抜けしたような声を上げた。


「じっくり私が見て、アドバイスしなくても。この三曲は大丈夫」

「え、でも私...」

「だって春歌ちゃんの顔つきが全然違う。すごく穏やかで、でも自信があるって顔してる」


大きくて綺麗な目をさらに見開いて、その後ふわりと頬を染める彼女。こっちまで穏やかな気持ちになる。こういう雰囲気に、きっと彼らは惹かれるんだ。彼らだけじゃない、私自身もその一人だと実感している。


「そうなのかな...。雪蛍ちゃん、ありがとう」


お互いにクスリと笑い合い、お茶を一口。こんな風に同世代の女の子と仕事の話をする日が来るなんて思いもしなかった。そう思いながら目の前の彼女を見つめる。


「雪蛍ちゃんは今、聖川さんのソロ曲の編曲をしているんだよね?」

「そう。曲を初めて聴いた時はアイドルにしては珍しいテイストだからびっくりした」

「そうだよね。でも、聖川さんらしい、聖川さんにしか歌えない...そんな曲を贈りたくて」

「うん、分かるよ。あの人って少し変わってるっていうか...和、って感じだもんね」

「確かお部屋にも畳を敷いているって」

「え、蘭丸さんと同じ部屋で?」


なんてシュールな。まさか部屋全体に畳が?...さすがにそれは蘭丸さんが許さないか。ぜひこの目で確認したいものだ。

そんな話をしていると、私の携帯がメッセージの受信を伝えた。


「あ」

「お仕事?」

「仕事と言えば仕事。噂の聖川さんから」


春歌ちゃんに見せた画面には、『歌詞を書き終えたので、時間があるときに渡したい。都合がいい時を教えてもらいたいのだが』とあった。やることが早くてこちらも助かる。翔さんのときは割と進みが遅かったから...なんて比べるのもなんだけど。楽しみだなあ、と嬉しそうに呟く春歌ちゃんを横目に返事を打つ。


『時間あるのでいつでも大丈夫です。お部屋まで取りに伺いましょうか?』


すぐに来た返信には、明日の朝食後に会えればそのときに渡したいと書いてあった。


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