事務所の廊下を歩いていると、後ろからカツカツという靴音が近づいてきた。振り返ると同時に名前を呼ばれる。


「カミュさん」

「帰りか」

「はい、そうです」


なんだか久しぶりに会った気がする。足元は革靴だが、上は白ジャケットではなく青色のシャツ一枚。さらりと着こなす姿が美しい。かっこいい、より美しいという言葉が似合うのがカミュさんだと思っている。


「久しぶりだな」

「はい。お仕事だったんですか?」


歩調を少し緩め、私に合わせてくれている。冷たいようで優しいのだ。


「マネージャーとの打ち合わせだ」

「お忙しいですね」

「まあな。今度の撮影には愛島を連れていかなければならないことになった」

「そうなんですか...それは大変ですね」

「あいつは課題を出してもなかなかやらん。まったく、やる気があるのかないのか」


眉をひそめるカミュさん。これから違う現場へ向かうというので、正面玄関で待機していた車に乗り込むのを見送った。乗り方までも優雅に見えるのはカミュさんだからだろうか。さすがは伯爵...。


「お気をつけて」


お前もな、という言葉の直後にドアが音を立てて閉まり、車が発車した。私は愛用のヘッドホンをつけて駅へ向かう。

流すのはこの前作った翔さんの曲。CDの売り上げは主題歌を歌った日向さんに次ぐ順位を獲得し、映画も大盛況。ST☆RISHのうたプリアワードに向けた駆け出しとしては最高のスタートを切っているようだ。

同じように、きっと聖川さんのオーディション結果やその後の舞台の成功も関わってくるのだろう。重要な仕事に携わっているということを、翔さんの件を通して改めて感じた。

電車に乗り込み、携帯端末を開く。メッセージの着信があったのでそれを見ると、嶺二さんからコメント付きで写真が送られてきていた。


「ここは上手くいってるよなぁ」


写真は嶺二さんが自撮りをして、その隣に笑顔の音也さんがいるもの。奥に一ノ瀬さんも写っているけれど、横目でチラッと見ているくらいで手には本があった。『これから取材と撮影だよん!』のメッセージ。

同室の三組の中では此処が相変わらず一番仲が良い。『がんばってくださいね』と当たり障りのない返事をしていると、新規のメッセージの知らせがきた。


『今度は聖川さんのソロ曲だよね!よろしくお願いします。あと、ST☆RISHの新曲のことで少し相談があるから、もし時間があったらお話ししたいんだけどどうかな?』


可愛い絵文字付きの春歌ちゃんからのものだった。CDショップに寄って参考になる音を探す予定だけれど、その後なら時間が取れるはず。いいよ、とまた簡単な返事をしてから、音楽プレーヤーをいじって聖川さんの音源を流した。

アイドルソングなのにこのメロディーライン。私にとっても初めてのアレンジになるだろう。聖川さんや和の雰囲気をイメージしながら、窓の外を流れる景色をぼんやりと眺めていた。


back

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -