たっぷりの朝食を取り、満腹感でいっぱいになる。仕事があるからと先に席を立った嶺二さんの分の食器も重ねながら調理場へ向かうと、割烹着を身に付けた聖川さんが洗い物をしていた。


「代わりましょうか?」

「いや、大丈夫だ。運んできてくれて助かる」


あまり話したことがない相手だけれど、聖川さんはST☆RISHの中でも一番大人っぽいから少し落ち着く。勝手ながらもそんな印象を抱いていた。


「徳永、」


食器のぶつかる音が止み、聖川さんが私と目を合わせた。


「急で申し訳ないのだが、俺のソロ曲のアレンジをお願いできるだろうか」

「元々私がやる予定でしたが...何かあるんですか?」


聖川さんが濡れた手をタオルで拭く。ピアノが得意楽器なだけあって、長い綺麗な指。思わず目がいってしまう。


「実は、オーディションに出ることになってな。時代劇ミュージカルなんだが」

「時代劇ミュージカル?」

「ああ。実は俺も初めて聞いたのだが、演劇界では割と有名な話題作なんだそうだ」

「すごいじゃないですか。その歌唱テストで歌いたいということですよね?」

「そうだ」


お願いできるだろうか、と言う聖川さんは真剣そのもの。思わずふと笑みがこぼれた。


「実は社長からも、次は聖川さんの楽曲をと言われていたんです。もう音源も聞き始めていましたし、準備はできてます。素敵な曲にしましょう」


少し驚いたような表情になった聖川さんだったが、すぐに微笑みに変わって。


「よろしく頼む」


丁寧な言葉遣いの彼は、前回の翔さんとはまたガラッと違う雰囲気だ。


「まずは聖川さんに歌詞を書いていただきたいです。それを参考にして音作りをしたいので」

「分かった。もう途中までは出来ているから、早めに渡せると思う」

「、そうですか!早いですね、ありがたいです。では、出来たらまた連絡を頂いてもいいですか?」

「ああ」


再び洗い物の手を進め始めた聖川さん。では、と小さく言い、私はその場を後にした。

ミュージカルのオーディション。聖川さんの魅力を最大限に引き出せるような曲にしなきゃ。あのメロディーに合うアレンジに使える音...和楽器かな。何か参考になるCDがあっただろうかと頭の中はそれでいっぱいになっていた。


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