最近、ぼくも彼女も忙しくて、事務所でも寮でも会うことがない。なんでも彼女は絶賛引きこもり中......もといアレンジ制作中らしい。


「れーいちゃーん!」

「ん?どうしたの?」


今日はお仕事がなくて、久々のオフ。部屋のベッドで雑誌片手にくつろいでいると、可愛い後輩のおとやんがダイブしてきた。


「ねえ、徳永さんのことなんだけどさ」


雪蛍ちゃん?どうかしたの?おとやんはごろんと寝っ転がって、座っているぼくを見上げた。


「んー。最近ちょっと話題になってるんだけどね、」





おとやんの話を聞いてから、ぼくらは一緒に雪蛍ちゃんの部屋へと向かっていた。


「なんか、七海が気にしてるんだ」

「女の子同士だからねー」


そりゃあそうだろう。ぼくだって心配だよ。ちょっと。


「ほら」

「わあ...ホントだ」


雪蛍ちゃんの部屋のドア。ノブに掛かっている札には、“開いてます”の文字。


「これがあるときは作業中なんだって。それで、勝手に入ってきていいって意味らしいよ」

「それ、雪蛍ちゃんが言ってたの?」

「翔がそう言われたって」


翔も困っちゃっててさあ、と言うおとやん。まあ、これは、ね。雪蛍ちゃんがお仕事関係で他人を部屋に上げるのはよくあることだ。ぼくらだって上がり込んで一晩中あーだこーだした覚えがある。

それにしても。


「確かに...ぼくら相手じゃキケンもないとは思うけどねー」

「まあね。でも、レンとか」

「ああ......レンレンね」


彼は例外かもしれないな。うん。

仕方ないから、そっとドアを開ける。手招きをして、おとやんと部屋に入った。耳を澄ますと聞こえるのは、パソコンのキーボードを打つ音。雪蛍ちゃんはヘッドホンを付けて画面に向かっていた。


「俺たちに気付いてないのかな?」


たぶんね。彼女を見ながら小声で話す。この後どうする?声かける?時間あるし、ぼくは此処で待ってようかな。あれだけ集中してる雪蛍ちゃんに、野暮用で話しかけるのは申し訳ない。ぼくはソファに座って持ってきていた雑誌を広げた。


「そっかあ......あっ!」


どうしよう、と首を傾げていたおとやんは、部屋の一角にあるCDラックの方へ向かった。うわぁ、と小さく声を漏らしながら大量のそれに目を輝かせる。


「いいなあ、これ。俺も買おうか迷ってやめたんだよなぁ」


どれどれ、と立ち上がって隣に行くと、コレ、とおとやんが指を指す。有名なギタリストのものだった。


「いろんなの持ってるんだねー」

「お仕事の参考にしてるんだってさ」


ギターのも、サックスのも、ピアノのも、ヴァイオリンのも、全部彼女の私物。仕事道具の一つだ。残念ながらその中にマラカスはなくて、以前それを言ったら、嶺二さんの録音しましょうか?って返されちゃったんだよねー。


「あれ」


ぼくたちのひそひそ声と違うそれに、同時に振り返る。


「やあ!」

「おじゃましてまーす」


来てたなら声かけてくだされば良かったのに。雪蛍ちゃんはヘッドホンを外してそう言った。


「集中してるみたいだったからさ。それに、急な用事じゃないし」


雪蛍ちゃんは特に怒る様子もなく、そうですか、と返した。


「れいちゃん、れいちゃん」


ドアのことは?おとやんがぼくの肩を叩きながら呟く。あ、そうだった。そのことで来たんだよねん。ぼくちんおばかだ。


「ドア?」

「そうだよ雪蛍ちゃん!ドア!鍵開けっ放し!」

「あれ、札提げてありませんでした?」

「だっからー、それが問題なんでしょー?」


開けてあります、なんて公言したら不用心にも程があるよ?ぼくの言葉におとやんも頷く。


「それ、春歌ちゃんにも言われました」

「じゃあなんでやめないの」

「だって、」


作業中はノックされても気付けないし、お待たせするのは申し訳ないし、ただ鍵開けておいたら藍さんには怒られるし、一々みなさんに言うのも面倒だし......。


「だからってあれはどうなの雪蛍ちゃん」

「他に思いつかないです」


真顔で話す雪蛍ちゃん。本人なりに、真剣に考えた結果らしい。


「っていうか、雪蛍ちゃん」

「はい」

「ちゃんと食べてる?」


ほどほどに。彼女はぼくから一瞬目をそらした。仕事に夢中になると食事を抜く癖がある彼女は、結構心配なわけで。それはぼくだけじゃなくて、そのことを知っている人はみんな気にしている。当の本人は大した問題じゃないと言い張るけれど。


「ほんと?」

「はい」

「.........」

「ひょ、......なにひゅるんへふか」

「寝てる?」

「はひ」

「たまには運動してる?」

「......」

「しようね」

「......はひ」


雪蛍ちゃんのほっぺを摘んで向かい合う。どこまで本当でどこから嘘かは分からないけど、この体勢に少し不機嫌になってきているのはよく分かった。


「なんかさぁ」


手を離して雪蛍ちゃんのほっぺをさすりながら謝っていると、近くにいたおとやんが口を開いて。


「れいちゃんと徳永さんって、」


カップルみたいだね!


とびきりの笑顔で言ったおとやん。でっしょー?と言いながら目を丸くして固まる雪蛍ちゃんに引っ付いたら、全力で押し返された。イケズっ!


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