その日はいつもと変わらぬ、晴れ渡った青空があって。大海原ではモビーが悠々と次の島へと向かっていた。
「こりゃあ......」
「......」
その甲板の一角で。1人の男がしゃがみこみ、そして1人の幼児がその前に笑顔で立っていた。
「なまえ、それはその......マルコの真似か...?」
にこにこと自分を見るなまえに、慎重に尋ねるエース。
「うんっ。そうだ、よい!」
ふふふ、と笑い、なまえは両手で口を覆った。
いつものようにマルコ付き添いの元食堂に来たなまえは朝食を食べ、そのまま歯磨きをしに部屋に戻り。その後甲板で再び会ったエースとなまえであったが、
『あ、えーす!だ、よい!』
この一言で、冒頭の状態に至った。
エースはガシガシと頭を掻いた。
「えーす、どうしたの?」
「え、あぁ、」
首を傾げるなまえ。一切悪気がないのは、よく分かっている。ただ、
(マルコ、口癖真似されんの、嫌いだからなぁ......)
それが問題だった。かつてエースも、その不思議な口調を面白がって真似したことがあった。が、その時予想外にも天罰が下ったという、苦々しい記憶が頭をよぎる。
「でも、なまえだったら別なのか?」
「?」
「いや、でも......俺が怒られる?」
「??」
「とは言ってもなぁ...なんか、なまえがやると、アリかも」
「???」
ぶつぶつ呟くエース。なまえの頭の上には、絵に描いたような疑問符がたくさん付いていた。
「ん?何やってんだ、お前ら」
「あーっ!いぞー!」
そんな滑稽な2人の横を通りかかったのはイゾウだった。
「よお。なまえ、おはよう」
「いぞー、おはよう、よい!」
「“よい”......?」
一瞬にしてイゾウが顔をしかめる。そして、無邪気に笑うなまえの前で未だ悶々としているエースを見る。
「......そういうことか」
エース、とイゾウが声をかけると、
「お前、酷いぞ。顔が」
顔を上げたエースは、その百面相をイゾウにさらす。
「どうするよ?これ。でもよぉ、なまえがやると、なんか可愛くね?」
確かに、とイゾウはなまえの前にしゃがみこんだ。
「なまえ、朝何食べた」
「ほっとけーき!だよい!」
「......エース」
「ん?」
「ありだな。アリだ」
可愛い。わざと付け足している感が、余計に可愛いのだ。そしてこの笑顔。マルコと同じ言葉を発しているとは思えないほどの威力で、エースとイゾウはやられていた。
「あー。サッチの言うとおりだなァ」
なまえの頭を撫でるイゾウ。
「何がだよ?」
「いや、な。この前サッチが、なまえのこと心配しててよ。『マルコと一緒に居すぎて、あの変な口癖移ったらどうすんだよ!?んなの俺、耐えられん!あぁぁあ』......って。」
「...な、なるほど」
結局、なまえの突発的な物真似はその日だけに収まって、エースとイゾウは胸を撫で下ろしたんだとか。
君とだけ、お揃い
(ん、なまえ。もう真似しないのかい?)
(え!きょうもおそろい、していいの!?)
(いいよい)
(やったあ!よい!)
(マルコー、おはよい!)
(......エース、調子に乗るなよい)
(怖ェェエ!!!!)
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