ぷるぷるぷる...ぷるぷるぷる...
マルコが部屋で仕事をしていると鳴り始めた電伝虫。ペンを持っていない方の手で、そちらを見ずに受話器を取った。
がちゃ。
「マルコだよい。どうかしたか、親父」
「......もしもし…?」
白ひげからの電話だと思い取ったはずが、いつもの野太い声とは裏腹に、聞こえてきたのはか細い声。マルコは目を見開いて電伝虫の顔を見た。
「......なまえ?」
白ひげの顔でないそれ。きょとんとした表情は、まるで愛おしい我が家の末娘のようで。
「...うわあ!まるのこえだあ」
やはりそうだったらしい。これはなまえからの電話だった。
そのころ、船長室では白ひげの膝の上で小さな娘が電伝虫を抱えるようにし、顔を輝かせていた。
「ぱぱぁ!まるのこえ、きこえた!」
振り返ってなまえは大きな白ひげを見上げるように笑顔を向けた。
「グララララ!そりゃあ良かったなァ、なまえ」
「ぱぱも、きこえた?」
「あァ、聞こえたさ」
なまえは初めての電話に興奮気味なようだった。白ひげはそれを目を細めて優しい表情で見ていた。
「なまえ」
急に再び聞こえたマルコの声に、はっとするなまえ。
「なあに?」
「親父んとこ、いんのかよい」
「うん。ぱぱのおひざのうえ」
そうか、と呟いたマルコ。電話ごしに聞こえる声が楽しそうで、マルコはふと笑みを零した。
「まる、おへや?」
「そうだよい」
「さっちは?えーすは?」
「話してぇのか?」
うん...!と返事をするなまえ。好奇心いっぱいの少女はマルコでは飽き足りないようで。少し悔しさを抱きながら、マルコは電伝虫片手に甲板へ歩き出した。
「待ってな。今かわってやるよい」
「うん!」
どこまでも甘いマルコに、白ひげは電話ごしに笑った。
「サッチ、」
「んあ?どうしたよ、マルコ」
出てすぐに発見したサッチに声をかけ、なまえだよい、と電伝虫を差し出すとサッチは飛びつくようにして受け取った。
「なまえ!?」
「さっち!」
「うおぉぉお!!なまえだ!おいマルコ!なまえが電話してやがる!」
「......なまえを何だと思ってんだ、おめーは」
興奮するサッチに、マルコはため息をついた。
「さっち、さっち」
「ん!?どうしたなまえ!?サッチさんに告白か!?」
「なんでだよい」
「......こ、くは...く...?」
ギャーギャー騒がしい電話の向こう側。くるくると表情を変える電伝虫に、なまえはハテナを浮かべていた。そんな娘の頭を一撫でして、白ひげは受話器を受け取る。
「グラララ...おめーら、なまえが困ってるぞ、馬鹿共が」
白ひげに撫でられ、目を細めてその指を手でぎゅっと握るなまえ。それが可愛らしくて、白ひげは頬をすっと撫でた。
「おーい!何やってんだあ?」
「おぅ、エース」
「エース、聞けよ!なまえが電伝虫使って電話してやがる!すげえだろ!?なあ!」
受話器をずいっとサッチが突き出すと、エースはそれに顔を寄せた。
「なまえー」
「...えーす?」
「おう!」
「えーす、なまえだよ!」
「あぁ。ここで馬鹿兄貴たちが騒いで喜んでるぜ」
「エース、馬鹿とはなんだ、馬鹿とは」
「お前のことだろい、サッチ」
「あぁー!?」
目に浮かぶその光景に、声を上げて笑う白ひげ。
「......ぱぱ?」
「ん?なんだ、なまえ」
「みんな、おでんわすきなの?」
「グラララ!そうだなァ。なまえとの電話だから、あいつらは嬉しいんだ」
「なまえだから?」
「またかけてやれ」
「うん!なまえも、おでんわ、すき!」
兄馬鹿×3
(あれっ!電話切れてる...!?)
(ホントだ)
(ったく......サッチが騒がしいからだよい)
(俺ぇぇえ!?)
(親父が切ったんだろうな…もっとなまえと喋りたかったのに、サッチ)
(え、だから、俺なの!?)
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