むくっと起き上がると、小さな少女は目をこすった。隣で寝ていたはずの彼はすでにいなくて、でもさっきまでいたであろう彼の温もりを小さな手に感じた。
「......っと」
ずり落ちるようにベットから下りると、寝起きで覚束ない足取りのままドアへと向かった。見上げる先にはドアノブ。しかしそれはなまえが背伸びをしたところで届くような位置にはなくて。
引きずってきたのは、いつも彼の机の横に置いてある幼児用の椅子。ドアの前に置いたそれによじ登り、ドアノブをがちゃりと回した。
「あ、あいた...!」
このような事をしたことはなく、初めての体験に朝からなまえはどきどきしていた。
少し開いた隙間を閉めないよう慎重に椅子をどけ、なまえはそろりと部屋を出た。
***
「どうしよう......」
目の前には再びドア。てとてと歩いて食堂までなんとか辿り着いたのだが、入るにはこれを開けなければいけない。しかし先ほどのような椅子などなくて。おろおろしていると、後ろからバッと抱きつかれた。
「ふわぁっ!」
「なまえ、はよっ!」
「えーす!」
なまえをひょいと抱き上げたエースは向かい合うようにして自分の腕に収めた。
「おはよう!えーす!」
「ん。あれ、マルコは?」
いつも朝はセットで食堂に現れるのに、見当たらないその男。
「まる、さきにいっちゃった」
「え?先に?」
「うん」
なまえとマルコは一緒に寝ていて、絶対にマルコが起こしているのに。おかしい。エースは首を傾げた。
「えーす、ごはんは?」
「おう、そうだな。食べ行くか」
目の前のドアを開けると、そこには既に大勢のクルーが朝食を食べていた。
「おはよう!」
向日葵のような笑顔でなまえがクルーに声をかけると、誰もが顔を綻ばせた。
「なまえ!」
「さっち!おはよう!」
キッチンに立っていたサッチがいち早くなまえを惹きつけた。そして次には首を傾げる。
「ん?なまえ、マルコはどうした?なんでエース?」
エースはなまえを抱えたままサッチの前のカウンターに座り、自分の膝に乗っけた。
「まる...!さっち、まるは!?」
「マルコが先に起きてったんだってよ。珍しいよな」
「嘘だろ!?まだ来てねえよ」
「え......まる...」
急に不安になったなまえは、エースの帽子の紐をきゅっと掴んだ。
「大丈夫だよ。ほら、ホットケーキだ」
サッチがなまえのために焼いたホットケーキを出すと、一瞬ためらったなまえだったがそれを口に運び始めた。
「ったくよぉ。マルコ何やってんだよ。こんな可愛いなまえを放って...」
その刹那、食堂の扉が激しい音を立てて開いた。
「おいおめぇら!なまえ!なまえ見なかったかよい!?」
飛び込んできたのは
「おー、マルコ!」
「お......って、...!」
「まる!まる、おはよう!」
「なまえッッッ!!!!!!」
へなへなとエースとなまえに近づき、マルコは隣の席に腰掛けた。
「なまえ......おめー、いなくなったかと......」
マルコが両手を広げると、なまえはその胸に飛び込んだ。
「心配したんだよい」
「なまえはマルコが先に行っちゃったって」
もぐもぐ食べながら言うエース。
「んなわけねぇだろい。あれだ......一瞬親父に用があってな。数分抜けてたんだ。そのすきに...帰ったらいなくなってたから、本当に驚いた」
「ったく。なまえ、マルコが嫌になったら、いつでも俺のトコ来いよ?」
サッチに冷たい視線を送るマルコ。
「......まる...?」
腕の中で自分を覗き上げるなまえに、マルコはふと表情を戻して見返した。
「どうした」
「なまえ、あさ、まるがいなくって...ちょっとさみしかった」
小さな口を尖らせ、眉を八の字にする幼子に、マルコは笑みを浮かべた。
朝は君の隣で
(サッチ、俺の朝食は?)
(朝からなまえを悲しませた罰だ!なし!)
(おいおい)
(まる、はい!なまえのあげる。あーん)
(ん、うめぇ。ありがとよい)
(ふふふっ)
(くそっ。なんかマルコ役得じゃね!?)
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