「っ、あー...まいったねい...」
ベッドの上で体を起こし、マルコは頭を押さえつけた。頭痛だ。心なしかいつもより体もだるい。
原因は確実に昨日のことだ。穏やかだった天候が急に荒れ、大雨と強風に合った。クルー総出でなんとかしのいだが、かくいうマルコも雨に打たれた1人だった。
「こんなことで風邪なんて、情けないねい」
違和感を感じる喉。小さく咳払いをして、マルコは隣で眠るなまえの頭を撫でた。
「まる......おはよう...」
ずずっ。
目をうっすら開け、寝ぼけた声を発した後に聞こえた音。マルコはサーッと血の気が引くのを感じた。
「やっちまった...」
***
「どっちも大した風邪じゃないが、なまえは少し心配だ。だからと言って、1人隔離する訳にもいかん」
船医はよいしょ、と立ち上がった。
「お前も今日くらいは大人しくしておけ、マルコ。なまえの看病も頼むぞ」
「悪いねい」
パタンと閉まって船医が出て行った扉を見つめた。マルコはひとつ溜め息をついた。
「まる?」
ん?と言いながら、マルコは隣で横になっているなまえに目を移した。そのおでこには冷えピタが貼ってある。
「まる、きょうおしごと、ないの?」
「俺も風邪だからねい」
「ほんとう!?ずっと、いっしょ!?」
熱でほんのり赤い顔で、目を輝かせるなまえ。マルコはなまえの前髪を梳きながら微笑んだ。
「一緒だよい。じっと寝てるんだぞ?」
「うんっ!」
満面の笑みを浮かべるなまえは、早速体がうずうずしていた。マルコは久々にもらった休養に、何をしようかと思いを巡らせた。
***
「なまえ。体だるくねえか?」
「へーきだよ!」
なまえは目の前のスケッチブックを見たまま答えた。手にはクレヨンが握られ、楽しそうに絵を描いていた。隣で寝ているマルコは本を片手に、なまえの様子を見ていた。
マルコが再び本に目を落としたとき、扉が叩かれた。それに答えると、サッチがお盆を片手に入ってた。
「さっちー!」
「なまえー!」
「...サッチ、静かにしろい」
一応病人だぞ、とマルコが言った。それにかまわず、サッチはマルコの奥にいるなまえの頭を撫でる。嬉しそうに頬をゆるませるなまえに、マルコも思わず微笑んだ。
「ほら、なまえ。これ食べて元気になれよ」
「うん!」
「俺のは」
「致し方なく作ってやったぜ」
「ありがとよい」
船医に渡されたという薬もマルコに説明し、サッチはなまえに目を向けた。
「じゃあな、なまえ。いい子にしてるんだぞ」
「うん!」
「マルコに襲われたら「ふざけんなよい」
「......?」
怖い怖い、とおどけながら手を振ってサッチは出て行った。マルコがなまえの分の小さな器を手にし、スプーンでおかゆを掬う。
「なまえ、食べれるか?」
「......おかゆ」
「食べないと、外で遊べないよい」
おかゆが苦手ななまえは怯みながらも、マルコの言葉にゆっくり口を開けた。そこにスプーンを持っていき、食べさせてやる。
「えらいえらい」
その後もなまえは頑張って完食し、マルコも自分の分を素早く食べた。薬も飲み、2人でベッドに潜り込む。
「ねえ、まる」
「ん?」
「なまえね、また、かぜひく!」
なまえはぎゅっとマルコの腕に絡みついた。
「だって、まるとずっといられる!また、まるも、かぜひいてね」
「そうだな。そのときは、一緒がいいねい」
早く元気になあれ
(なまえ、起きられるか?)
(うん!)
(......ん、熱下がったねい)
(まるも?)
(あァ)
(やったねえ!でも、きょうはおしごと、でしょ?)
(......サボるか?)
(だーめーっ!おしごと、がんばってね!)
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