闇の帝王と呼ばれていても、そうでなくても、この御方はわたくしを惹き付けてやまないのだ。


古書店にて。古い紙とインクの匂いに包まれる。流れるような動きで自然と解かれた手。わたくしのそれは冷えきったいるようなのに、すこし湿っているから不思議だ。緊張していたせいだろうか。

「俺様のそばを離れるなよ」
「はい。我が君」

そして我が君は本を手にお取りになって、少し眺めてからまた棚に戻しなさったり、購入決定なのだろう、わたくしにお渡しになったりした。我が君の横顔を拝見して、いつもハッとするのは瞳の色だ。正面からは赤く見えるのだが、横からは黒そのもの。吸い込まれるような、闇の、ふかいいろ。

「…どうかしたのか?」

ああ、しまった。不躾であった。わたくしの視線にお気付きになられたようだ。わたくしは口ごもる。見とれておりましたとは、申し上げられるはずもない。

「見とれていたか」
「なっ、そ、そんなことはございません…!」
「隠さずともいいものを」

そうして、穏やかに笑いなさる。わたくしの大好きな、笑顔だ。

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